最近、日本各地の海岸で、「磯焼け」という現象が起きていて、重大な環境問題になってきています。磯焼けとは、海岸に生えているコンブやワカメ、その他多くの種類の海藻が減少して不毛の状態となり、代わりにサンゴモと呼ばれる、うすいピンク色をした硬い殻のような海藻が、海底の岩の表面を覆いつくす状態をいいます。
 コンブやワカメ、あるいはアカモクなどのわりと大きめの海藻(大型海藻)の群落は、魚類の生活の場や産卵場であったり、またその一万で、太陽の光と、魚類その他の海生動物から排出される二酸化炭素を利用して、酸素と炭水化物を合成(光合成)したり、海の動物達にとって欠かせない役割を果たしています。したがって、海藻類は海の生態系の中において、非常に重要な存在であるといえます。しかし、磯焼けが発生すると、海藻がなくなることにより、生態系のバランスがくずれてしまい、魚が寄り付かなくなり、その代わりに、実入りの悪いウニや、小型の巻貝ばかりが目に付くようになります。写真に写っているたくさんのウニは、岩の表面の白っぼくて硬いサンゴモを食べて生き続けていますが、人間の食用になるまでには十分に成長できません。

「磯焼けの原因について」
 磯焼けの原因は、海流の変化、藻食動物(ウニなど)による食害、大量の河川水や砂泥の流入など、さまざまな説がいわれています。またその一方では、海岸の環境汚染により海水が濁ってしまい、光が不足することによって海藻の光合成作用が不活発になり、磯焼けが発生するのではないかと考えられている海域もあります。
 磯焼けの発生を未然に防ぐことができない今、かつては水産大国であった日本の漁場を復活させるためにも、藻場(もば)を取り戻そうとする動きが各地で見られるようになってきました。

 
 

※写真左「磯焼けのようす(北海道大成町)」  ※写真右「テトラポッドに着生したコンブやワカメ」

 

「投石による代替藻場の造成」
 磯焼けによって藻場が消えてしまった海底に、テトラポッドなどのブロックを沈めて、人工的に藻場をつくろうとする試みが、日本各地で実験的に行われています。コンクリートブロックを磯造りに利用しょうとする試みは、意外に古くからあり、昭和3年(1928)に北海道の日高で初めて行われたという記録があります。
 テトラポッドを海に沈めると、最初の数年間は、コンブなどの海藻が着生して、良く成長します。しかし、次第にサンゴモ類が生えてきて、結局はテトラポッド自体が磯焼けを起こしてしまうことがよくあります。対策としては、新しいテトラポッドを投入したり、沈めてあったテトラポッドの表面を掃除したりすることが挙げられます。また、そうすることによって藻場が回復することが多いようです。最近では、テトラポッドの表面の一部分を、新しいものに交換できるというようなものも使われています。
 このような大掛かりな作業に頼るだけでなく、日頃の私たちの海に対する思いやりを、今以上に持つということも忘れてはなりません。海の中は、たとえ浅い所であっても、普段簡単に見ることが出来ませんので、海の環境汚染の問題はわりと軽視されがちです。また、海藻による海を浄化させる能力は、陸上植物のそれと同等、またはそれ以上といわれています。藻場を復活させて、きれいな海を呼び戻そうとする運動は、すでに何年も前から始まっているのです。
(中野渡 嗣業)
 
写真は、富山県水産試験場の藤田大介氏より提供いただきました。ここに謝意を表します。  
   
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