日本には琵琶湖、霞ヶ浦、サロマ湖など多くの自然湖沼が点在しています。湖沼は陸水が大量 に蓄積されている貴重な空間であり、日本の自然湖沼の総面積はわが国の国土の約1%を占めています。これらの自然湖沼は、太古から人間に魚介類などの恵み、水上交通 路および美しい景観を与え、人間と密接な関係を保ってきました。そこで、人間生活と深いつながりのある自然湖沼がどのように形成されたかについてお話しします。
 自然湖沼の成因の分類は様々ですが、大きく3つに分けることができます。第一は火山活動や地殻構造運動によるもの、第二は浸食作用によるもの、第三はせき止めによるものです。表に、日本の自然湖沼の成因による分類の一例を示します。

1)火山活動や地殻構造による形成
 日本は火山の多い国であるため、火山活動によって作られた湖沼が多く点在します。火山活動によってできた湖はカルデラ湖、火□湖、マール(1回だけの爆発によってできた火口に水がたまったもの)などがあります。カルデラ湖は火山頂あるいは火山地帯が陥没によって沈み込み、そこに水がたまって形成された湖沼です。カルデラ湖の特徴は深度が大きく、湖面 の面積に比べて集水域が狭く、流入する水と栄養塩などの量が少ないことです。日本には秋田県の田沢湖、北海道の摩周湖、青森県の十和田湖(写 真1)など十数個のカルデラ湖があります。火□湖はその名の通り火山の噴火□に水がたまって形成された湖沼であり、比較的水深が浅く満月型のものが多いのが特徴です。
 また、世界の大きく深い湖の大部分は、その形成に地殻の褶曲(しゅうきょく)運動や断層運動が大きな役割を果 たしており、これらを総称して構造期と呼びます。日本で一番に大きい琵琶湖の成因は、構造運動により形成されたものです。

2)侵食作用による形成
 侵食作用で形成される湖沼は、河川侵食湖、氷食湖および溶食湖があります。河川侵食湖は、河川の蛇行によって河川が短絡され、残った部分が三日月湖となって形成される湖です。北海道の三日月沼は、河川侵食湖として知られています。また、氷食湖は谷氷河の頭部の圏谷(カール)に氷河の侵食作用が働いて形成された湖沼であり、溶食湖は石灰岩または岩塩を水が溶解して形成された湖沼です。

写真1 十和田湖
写真2 小川原湖

3)せき止めによる形成
 日本の湖沼はせき止めによって形成されたものが多く、そのせき止められ方は様々です。特に、日本は海に囲まれた島国であるため、サロマ湖、宍道湖、小川原湖(写 真2)のように海水を含んだ汽水型のせき止め湖(海跡湖)が多く点在しています。これら日本沿岸の湖沼の多くは、最終氷期が終わり、海の水位 が上昇して海水が陸地に進入して内湾を形成し、やがて海へ流出する河川あるいは潮流によって運ばれた砂が内湾をせき止め、外海と隔離され形成したものと考えられます。また、栃木県の中禅寺湖は、火山爆発の熔岩や泥流によって河谷がせき止められてつくられたものです。日本は豪雨や地震が頻発するため山崩れや地滑りが多く、神奈川県の震生湖は1923年の関東大震災の時にできたせき止め湖です。  このほかに、変わったせき止め湖沼としては生物の活動によって形成された尾瀬ヶ原や霧ヶ峰などの高層湿地の池塘(ちとう:池のつつみ)があります。そこではミズゴケが一面 に生育しその遺骸は分解が遅いために泥炭となって上へ上へと堆積し、盛り上がった地形となります。しかし、何らかの理由で頂上に水たまりができるとその部分ではミズゴケが生育せずその周辺だけがしだいに高くなっていくために池がつくられます。高層湿原の池塘は、栄養塩が水面 への降水のみによって供給されるため、きわめて貧栄養的な条件にあります。
 以上、日本各地にはさまざまな要因によって形成された自然湖沼が点在しています。
 最後に、私たち人間は将来も湖沼の豊かな自然環境と良好な共存状態を長く保ちながら生存していくために、一つ一つの湖沼に対する生態系、水質および循環特性を把握する必要があります。
(植田 真司)

 
   
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