牛、羊、山羊などは、草を食べて体を大きくし、乳を生産することができます。その秘密は、これらの動物の持つ大きな発酵タンクにあります。
 牛、羊、山羊などは、一般に反芻動物(はんすうどうぶつ)と呼ばれています。反芻(はんすう)とは、一度飲み込んだ食べ物を再び□の中に戻して、再咀嚼(さいそしゃく)することです。反芻動物の最大の特徹は、四つの胃(第一胃、第二胃、第三胃、第四胃)を持つことです。人間や豚の胃に相当するのは第四胃ですが、その前に三つの胃があります。したがって、消化機能も人間や豚など胃が1つしかない単胃動物とは大きく異なります。特に第一胃は四つの胃全体の約80%以上、消化管全体の約半分を占めています。草から肉や乳を生産する過程に、この第一胃が大きく関係しています。
 反芻動物が草を食べるとき、主要なエネルギー源となるのは草の炭水化物で、これはデンプンなどの可溶性糖類とセルロースなどの繊維質から成っています。 しかし、人間や牛を含む高等動物自体は、繊維質を分解する酵素を持っていません。それでは、牛はどのようにして草の繊維質をエネルギー源にしているのでしょうか。
 第一胃はルーメンと呼ばれ、成牛で150〜250リットルの膨大な容積をもち、そこには、細菌をはじめとする様々な微生物が多く生息しています。ルーメン内ではこれらの微生物が主役と言っても過言ではありません。彼らは、高等動物にはない繊維質を分解する酵素を持っているのです。ルーメン内では、牛自身が消化できない繊維質が、彼らの働きによって分解されます。人間や犬の大腸にも細菌などの微生物が存在していますから、食物中の繊維質の5%程度は分解されます。これに対し、盲腸に微生物が多く生息している馬では30〜50%も分解されます。そして、ルーメンをもつ牛に至っては、50〜80%も分解されると言われています。最近は、ルーメン内のこのような植物性繊維を分解できる菌を単離して別の目的に利用するという研究も行れれています。

       反芻動物の胃の模式
シバ山羊の親子

 次に、牛に食べられた草がルーメン内の微生物の働きによって分解された後についてお話します。草の繊維質の主成分であるセルロースは、紙や綿などの材質そのものです。これは、ルーメン内の微生物の持つセルラーゼ(セルロースを分解する酵素)やその他の何種類かの酵素の働きによって、グルコースになります。そして最終的には、酢酸などの揮発性脂肪酸(VFA)とメタンになります。人間の主なエネルギー源がグルコースであるように、牛の主なエネルギー源は、このVFAなのです。
 この他に、ルーメン内には、質の低い草のタンパク質を分解して、質の高い微生物体タンパク質に変換する働きをもつ微生物もいます。牛はこの質の高い微生物体タンパク質を利用するのです。
 このように、ルーメンという大きな発酵タンクを持つことによって、人間がうまく利用できない繊維質や質の低いタンパク質を含む草を食べて、肉や乳に変換する反芻動物は人間にとってかなり有益な動物である と言えます。一方で、肉1kgの生産に必要な穀物量が、鶏で2kg、豚で4kg、牛で7kgであるという表現を用いて、畜産物とりわけ牛肉の生産が効率の悪いものであると言われることもあります。しかし、これまで述べた反芻動物の持つ特性を考えれば、一概にそうは言えません。食糧が人間と競合せずに、良質のタンパク質を供給できるという点では、反芻動物は食糧危機の救世主になるかもしれません。
(鍋西  久)

 
   
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