1972年9月、フランスの原子力庁は“天然の原子炉が発見された”という不思議な報告をしました。   通常、天然ウラン中に、核分裂反応を起こしにくいウラン238が約99.3%、核分裂を起こしやすく核燃料として使われるウラン235が約0.7%含まれています。この比率は地球上のどこのウランでも変わりありません。ところが、フランスが採鉱を行っていたアフリカのガボン共和国のオクロ地区にあるウラン鉱山からでてくる天然ウランから、ウラン235の存在量が少ないところが見つかりました。この事実に、フランスの原子力科学者は大変困りました。詳しく調査を行ったところ、オクロの鉱山では、ウラン235の存在量の異常のほかに、ウランの核分裂が起きなければ出てこない物質が発見されました。この結果から、フランスの科学者は、ウラン鉱床の中で核分裂の連鎖反応が起こり、ウラン235の割合が少なくなったと判断しました。また、この核分裂反応は20億年前に起きていたことがわかりました。20億年前に人類と同じように文明を持っていた生物がいたという証拠は今のところ見つかっていませんので、この連鎖的な核反応は、自然に起きたものだと考えられています。そしてすでに、会から約40年前、日本人の科学者、黒田和夫博士(Dr.Paul Kazuo KURODA)が、このような現象があり得ることを理論的に予測していました。

 
 

天然原子炉の場所と外観

 

 核分裂反応が連鎖的に起きるためにはある条件を満たさなければいけません。一つは燃料であるウラン235が高い密度になって集まること、もう一つは水があることです。それは、水と衝突してエネルギーの小さくなった中性子の方が核分裂を起こしやすいからです。これは軽水炉と呼ばれる原子炉の原理です。
 ウランのような重い元素は、星が寿命を終える際に爆発する超新星爆発の際に重力のエネルギーを集めて作られたといわれています。したがってウランは地球が誕生する前から存在し、地球上では花崗岩の中に多く含まれています。このままでは連鎖反応を起こすのに十分なウラン濃度にはなりません。花崗岩が雨にさらされ浸食される中で、ウランが水の中に溶けだし、溶け出たウランは川の流れのなかで少しずつ沈殿します。気の遠くなるような長い年月を掛けてウラン濃度の非常に高い地層ができます。これがウラン鉱床の始まりです。約20億年前というと、天然ウラン中で核分裂を起こしやすいウラン235の濃度は約4%になります(ウラン235の半減期は7億年、ウラン238の半減期は45億年)。この濃度は、現在、原子力発電に利用されている軽水炉の燃料とほぼ同じです。このように今から20億年前、ウランの鉱床で連鎖核分裂を起こす条件がそろい、偶然、天然の原子炉ができたわけです。


天然原子炉の石

 天然の原子炉といっても発電所のように電気を起こしているわけではありません。天然の原子炉からは熱だけを出しており、回りの水を温め、温泉のように、蒸気だけを出していたと考えられます。このときに発生したエネルギーは、現在使われている100万キロワット級の原子炉5基を1年間全力で運転したときと同じぐらいだといわれています。これだけのエネルギーを実際には約100万年近くかけてゆっくり放出したことがわかっています。その後、天然原子炉は、ウラン235の濃度が核分裂反応を引き起こすのに必要な濃度以下に低下したため、自然に停止し、およそ40年前に化石となって発見されたのです。
 以上のように人類の英知を結集して作られた原子炉も、自然は遥か昔に作っていたのです。ところで、天然原子炉を研究する中で、核分裂によって生じた核分裂生成物は、20億年の間地中でほとんど動いていないことがわかりました。この結果を基に、原子力発電所からでる高レベル放射性廃棄物の処分法として、地中に埋めることが考えられています。
(鳥養 祐二)

 
天然原子炉の石の写 真は、グロエーネ後藤研究所所長の後藤茂氏の御好意により提供していただいたものです。
また、天然原子炉の執筆に当たり、社団法人海外電力調査会主幹研究員の藤井晴雄氏にご指導いたださました。 ここに謝意を表します。
 
   
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