ヨウ素(元素記号は I )には24種類の同位体があります。同位体とは化学的性質は同じですが、“重さ(質量数)”が異なる元素のことをいいます。この24種類のヨウ素の中で、放射線を出さないのは、“重さ”が127のヨウ素(127 I と書きます)だけです。核実験や原子炉事故時に検出されるのは、131 I 、132 I 、133 I などです。  129 I も原子炉の中でつくられますが、上に述べた3種の放射性ヨウ素に比べ、量が格段に少ないので、検出されにくいのです。しかし使用済核燃料を長期保存して、半減期の短いヨウ素が減衰すると、おもに現れてきます。表に核分裂によってつくられる代表的なヨウ素同位体の種類と半減期を示します。129 I の半減期はおよそ1600万年、その他のヨウ素同位体の半減期はそれにくらべはるかに短いことがわかります。
 原子炉事故の時に真っ先に検出されるのは、気体か、気体状になり易い放射性元素です。放射性の希ガス(クリプトンやキセノン)やヨウ素がこれに相当します。希ガスは、化学反応しないので、人体に蓄積されることはなく、大気中に拡散し、薄められていきます。しかも半減期に従い放射能を失っていきますので、人に与える影響は極めて小さいのです。
 一方放射性ヨウ素は呼吸や食べ物を通じて体内に入り、血中に移行します。血中に入ったヨウ素の10〜30%は甲状腺に蓄積されますが、その割合は、放射性でないヨウ素の摂取量に左右されます。通常人体には15〜20mgのヨウ素が含まれていて、その70〜80%は甲状腺に存在しています。甲状腺では蛋白質と結合し、甲状腺ホルモンとして生理的に重要な働きを担っています。ヨウ素の必要量は成人で1日当たり100〜200μg程度と言われています。大陸の内部や海産物摂取量の少ないところでは、ヨウ素欠乏症による障害が起きますが、日本は四面海に囲まれ、海から陸地に向けてヨウ素が運ばれていることもあり。土壌中にヨウ素が多量に含まれています。そのため、農作物から必要な量のヨウ素を摂ることができます。その上ヨウ素を多量に含むコンブ等の海藻やその他の海産物を摂取していますので、日本人の場合、血中から甲状腺に移行する放射性ヨウ素の割合は欧米人に比べて低くなります。

ヨウ素剤の投与
 放射性ヨウ素が大気中に放出されるような事故が起きた時に備え、ヨウ素剤(ヨウ化カリウム)が準備されています。甲状腺を放射性でないヨウ素で満たしておけば、放射性ヨウ素の甲状腺への移行を阻止できるという訳です。放射性ヨウ素が体内に入る前にヨウ素剤を飲めば、最も効果 的です。しかし実験によれば、同時に飲んでも、飲まない時の98%以上抑えることができるそうです。放射性ヨウ素が体内に入ってしまってからの時間が長くなればなる程その効果は低くなります。3時間後位でも50%以上の効果が期待できますが、半日後では殆ど効果はありません。
 ヨウ素剤の飲み方は、成人の場合、ヨウ素剤130mg(ヨウ素として100mg)を1日1回、必要に応じ3日間から7日間連続して飲みます。子供は成人に比べ甲状腺が小さく、通常含まれているヨウ素の量も少ないので、子供に対しては成人の半分の量を投与することになっています。ヨウ素を摂りすぎると害になることがありますので、妊婦や子供は注意を要します。
(大桃 洋一郎)

 
 

日本で用意されているヨウ素剤

 
   
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