「花の色は移りにけりな」

 六ヶ所村では、植物が生育できる期間が短いので、遅い春から早い秋の終わりまでの間、次々と野の花が咲き連なり、温暖の地を見慣れた者にとっては、この花とあの花が一緒に咲くのかと驚かされることがよくあります。また、沿道のお庭を拝見すると、何かしら美しい草花が端正に育ててあるのを目にすることができ、ここに暮らす人々の太陽を尊び、花を慈しむ気持ちのひとしおなのが伝わってきます。
 さて、植物はいったい何のために美しい花を咲かせるのでしようか。それは決して人の目を喜ばせるためではありません。植物は種を実らせるために花粉を雌しべに受粉させる必要があります。その仕事を昆虫にたよるものは彼らを花に訪れさせなければなりません。花はそのために日立つ色や形をしていたり、かぐわしい香りを漂わせたり、その奥深くに蜜を用意したりしているのです。私たちの目を楽しませる様々な花の色も植物が子孫を残すための装いに他ならないのです。 今回はこの「花の色」について「ひと口サイエンス」してみましょう。

〔花の色を決める色素〕
 自然界の花の色の系統は、白色系が33%で最も多く、次いで黄色系が28%、赤色系が20%と続き、紫 系と青色系を合わせて17%、その他の系統色が2%といわれています。このように花の色が様々なのは、その種類特有の色素物質がその組織の中に含まれているからです。
 ときには自然界でもある枝だけの花の色が変わることがあり、「枝変り」と呼んでいます。これは色素を作る遺伝子などが突然変異してしまったものです。このような突然変異の原因には様々なものが考えられますが、放射線もその一つです。このような枝変りで役に立つものは、挿し木などで増やして、新しい花色の品種として世に送り出されています。

 
 

「秋」を代表する花、コスモスにもいろいろな色がある。

 


〔白い花の色を現わす色素〕
 他の色とは違って、白い花には白い色素というものは含まれていません。たいていの場合、無色からうすい黄色を現わすフラボン類またはフラボノール類という色素が含まれています。例えば、キク、カーネーション、バラなどの白花にはこの類の色素が含まれています。それではなぜこれらの花はうす黄色や透明には見えずに白く見えるのでしょう。それは、花びらの中の組織がスポンジのように空気の小さな泡をたくさん含んでいて、光が当たったときに丁度ビールの泡のように白く見えるがらなのです。

〔黄色い花色を現わす色素〕
 黄色い花色を現わす色素には、前に述べたフラボン類の他にカロチン類などが知られています。フラボン類だけで濃い黄色を現わすものにナデシコ、ツツジなど、カロチン類だけによるものにチューリップ、ユリなどがあり、フラボン類とカロチン類の両方によるものにキンセンカ、マリーゴールドなどがあります。このカロチン類はカボチャ、ニンジンなどや、モミジやイチョウなどの紅(黄)葉の色を現わす色素でもあり、また、人間にとって必要なビタミンAに関係する物質でもあります。

 
 
※写真1(左) ツユクサ    ※写真2(右) アジサイ
 

〔赤やピンクや紫や青の花色を現わす色素〕
 赤やピンクや紫や青の花にはアントシアニン類という色素が含まれています。この色素は他の物質と 結びついたり、酸性アルカリ性の度合いなどによってこのようにいろいろな色を現わします。例えば、サルビア、ヤグルマソウなどの明るい赤、ケシ、コスモス、ウメなどの紅色やピンク色、シクラメン、モクレンなどの紅紫、キキョウ、ツユクサなどの青や紫、サツキ、シャクナゲなどの紅紫や紅桃、ペチュニアなどのピンクは、それぞれ同じアントシアニン類でも少しずつ種類の違った色素によるものです。また、アントシアニンは酸性では赤、中性では紫、アルカリ性では青に変わる性質があります。
 アジサイは土によって花の色が違うということで有名ですが、不思議なことに土が酸性だと青、アルカリ性だとピンクの花が咲きます。よく調べると、 土の酸、アルカリ度にかかわらず花は常に弱酸性であることが分かり、アジサイの花色の変化は花の酸・アルカリ度のせいではないことが分かりました。土が酸性になるとその中のアルミニウムが溶けだしてアジサイに吸われ、花のアントシアニンと結びついて青くなるという説がありますが、本当の理由はまだ解明されていません。
(多胡 靖宏)

 

 
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