日本に侵入した害虫の根絶を放射線を使って成功した例があります。東南アジア原産のウリミバエです。 1919年の八重山群島での発見を皮切りに、沖縄、奄美大島の南西諸島を北上しました。風に乗って台湾から侵入し、広がったと考えられています。このミバエは、ウリ科、ナス科、マメ科など百種に及ぶ作物の果実に卵を産み、幼虫が実を食い荒らします。そのうえ、これらの食害を受ける作物は、植物防疫法でミバエの生息地以外への移動が禁止されているので、南西諸島の農業振興に障害となりました。
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照射室
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シロツメクサ(環境研構内)
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ミバエの薬剤駆除は、幼虫が実の中にいるため効果が薄く、さらに他の虫への影響や残留薬剤も心配です。そこでミバエの特徴を生かして放射線が使われました。まず、大量に人工飼育した雄のさなぎに放射線を照射して生殖能力をなくします(不妊化)。次に羽化した成虫を自然界に放します。ミバエは一度しか交尾をしないため、不妊化した雄と交尾をした雌の卵はすべてかえりません。次世代のミバエが減り、何世代か繰り返すとやがて恨絶できます。交尾を利用するのでミバエにだけ有効です。不妊化した雄が野生の雄に比べ少なすぎると効果がなく、割合が大きいほど急激に数を減らせます。大量(数千万匹/週)のミバエの人工飼育や生殖能力だけをなくす放射線量と照射方法の選定などが、この方法の重要な鍵となります。
沖縄県では、1972年に放射線による不妊化を利用したミバエの根絶計画が始まり、那覇市のミバエ対策事業所に人工飼育施設、照射施設などが建設され、1993年にウリミバエの根絶が確認されました。現在、タイとフィリピンでこの方法によるミカンコミバエの根絶計画が国際協力によって進められています。
(小牧 晢)
ウリミバエの写真は、日本原子力研究所高崎研究所から提供を受け、許可を得て掲載したものです。
また、照射室の写真は、沖縄県ミバエ対策事業所から提供を受け、許可を得て掲載したものです。ここに謝意を表します。
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