〔謎の発光現象-TLP〕
 環境研ミニ百科第4号でお話したように、月にはまだまだ不思議な事柄が数多くあります。そのひとつは、月面での謎の発光現象です。これは、地球から月面を望遠鏡で観測している時に、月の縁やクレーターの中、山脈・海などの一部が点状や面状に明るく輝いたり、ガスや小さな雲のようなものがかかってかすんで見える現象です。研究者はこれを「つかの間の月の現象(Transient Lunar Phenomena,略してTLP)」と呼んでいます。(参考文献1)。
 TLPは、玄武岩の溶岩が低地にたまって冷えることができた「海」と呼ばれる平らな地域や、海と高地の境目付近でよく起こります。TLPが続く時間は瞬間的だったり、しばらく見えていたりと様々で、色も白っぼいのからピンク色、ルビー色などいろいろあるようです。そのためか、よく未確認飛行物体(UFO)と思いこみ、しかも主張する人がいます。しかしその人達はそれがUFOだという確かな証拠を示すことができません。なぜなら、UFO説は全くの間違いだからです。つまり、「地球外の知的生命体が乗っているUFO」が本当に月面を飛んでいるのなら、世界各国の大勢の天文観測者(数百万人)や軍の天文台などによって変った乗り物が「何年にもわたって」「何度も」「はっきり」と観測されていていいはずですし、また特別に電波を出しているなら、その種類によっては電波天文台だけでなくラジオ局やテレビ局、電話会社などで受信できてもよいわけです。しかし、それに関して「確実な」観測や報告例はいまだにありません。- おっと、いけない!つい熱くなってかなり横道にそれてしまったので、話を元に戻します。月面での謎の発光現象- これは、TLPという月の自然現象のひとつであることが観測で分かっています。

〔TLP観測の歴史〕
 TLPは、今から40年前の1958年に旧ソ連の天文台がアルフォンスス(図1)というクレーターを観測していた時に初めて発見されました(参考文献1)。その時は、クレーターの真ん中の丘に霞のようなものが見えました。それ以来、数多くのアマチュア天文家や専門家が月面のいろいろな場所で観測するようになったのですが、これまでTLPが余り大きな話題になったことはありません。その理由の第一は、この現象の発生が不規則なだけでなく、現象の規模自体が小さくて観測しにくかったこと、第二に、月へ行って調査するには大変なお金がかかったり技術的な面での難しさがあったからです。
 このような事情でTLPの研究は、はじめは望遠鏡による地球からの観測しか手段がありませんでした。勿論、少数の専門家がある程度の分析は観測で行なってきました。それで、TLPがガスであることが有力となりました。しかし、望遠鏡だけの観測では、観測者の見間違えや誤解、また地球の大気の揺らぎや望遠鏡のレンズの色収差による月面像のぼやけ、そして色の変化などのため、充分信頼できる結論とするには問題がありました。

図1 月面でTLPが頻繁に起こる場所(矢印の先)
図はミニ百科4号掲載の月面写真に加工・加筆しました


〔TLPの正体は?〕

 ところが、1971年にアメリカ合衆国の月探査機アポロ15号がアリスタルコス・クレーター(図1)の上空を通過した際、ウラン238という放射性同位元素がもとになってできるラドン222という半減期3.82日(参考文献1および2)の放射性ガスの量が通常の月面よりも格段に高いことを観測しました(参考文献1)。これとTLPが関係あるかどうかははっきりしませんが、少なくとも月内部からのガス放出があったことは確実で、このことから、月はガスを出すような内部活動を今でも続けているのではないかと考えられました。月は、そういう意味では「生きた」衛星なのです。まだ推測ですが、TLPの正体は火山性ガスの可能性があります。火山性ガスは月内部の構造や性質と関係があるので、TLPが頻繁に発生するクレーター(アリスタルコス、プラトーなど)や幾つかの地域(危難の海、シュレーター谷など)は、今後の月観測や月面探査で重要な目標となっています。
 21世紀には資源開発や火星探査のために月面基地を各国が建設する案があります。その時には、TLPの正体もおそらく確実に分かるようになると思いますので、今子供でいる人達はどうか楽しみに待っていて下さい。
(斎藤 幹男)
(追記)「月の話」はとりあえす今回で一時お休みします。これからの天文関係の話は、星や太陽系、銀河、宇宙など広い範囲でお話しします。
 

参考文献
1.月の謎と神秘を探る-「ニュートン別冊:月のミステリー 」、P.48・49、1994年、(株)教育社
2.おもな放射性同位体(6)-「理科年表(国立天文台編)」、物146(P.566)、1994年、丸善(株)
 
 
   
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