歩く、走る、跳ぶ、つかむといった運動ができるのは、からだを支持する骨と自由自在に動かせる筋肉があるからです。この筋肉は骨格筋といい、胃や腸などで自動的に収縮し食物を細かくし後ろに送っている筋肉や、血液を全身に送っている心臓の筋肉とは違い、自分の意志で動かすことができる筋肉です。ヒトの体には約500の骨格筋があり、例えば音を鼓膜から内耳に伝える耳小骨という数ミリメートルの大ささの骨を動かす骨格筋(あぶみ骨筋)は1ミリメートル以下の長さで、あぐらをかくときに使う骨格筋(縫工筋)は長さ約50センチメートルにもなります。骨格筋を虫眼鏡で見てみると細い糸のような線維が束になっています(図1)。
 
図1 骨と筋肉の関係
 

写真1 骨格筋の横断面

この線維を筋線維といい、直径が0.1ミリメートル、長さ数ミリメートル〜数十センチメートルのものまでいろいろな長さのものがあります。写真1は骨格筋を輪切りにした写真です。筋線維はピンク色の多角形をし、その端に青色の小さな核が見えます。これが寄り集まって筋肉を作っているのです。この筋線維の束が縦の方向に並んでその端は腱となって骨と繋がっています。この筋線維を縮めることによって骨を引っぱりからだを動かしているのです(図1)。この筋線維には白色筋線維と赤色筋線維の二種類があります。白色筋線維は太く、ミオグロビンという蛋白質をほとんど持っていないので白く見えます。反対に赤色筋線維は細く、酸素と結合するミオグロビンを多く含んでいるため赤く見えます。生理学的には、白色筋線維は疲れやすいけれど、素早く収縮でき速筋とも呼ばれます。一万、赤色筋線維は疲れにくく、その収縮はゆっくりとしていて遅筋とも呼ばれます。
筋肉はエネルギーのATP(アデノシン三リン酸)を分解することによって収縮します。このATPの作り方の違いで収縮の仕方が異なるのです。すなわち、白色筋線維はクレアチン・リン酸という物質を分解する方法でATPを合成します。これは赤色筋線維より効率がよく、また直径が太いので大きな力を出すことができます。しかしすぐエネルギーを使ってしまうので疲れやすいのです。一万、赤色筋線維は酸素を使ってATPを合成する方法のため、たくさんのミオグロビンから酸素を供給できるので長い時間収縮することができます。
写真2 白色筋線維

写真3 赤色筋線維

写真2と3は二種類の筋肉をある色素で染めた顕微鏡写真です。それぞれ多角形に見えるのが筋線維で、淡い青色に染まっているのが白色筋線維、濃い青色に染まっているのが赤色筋線維です。このように筋肉の種類によって二つの筋線維の占める割合が違っています。例えば、走ったり跳んだりする時に使う足のふくらはぎの筋肉である腓腹筋は、写真2のように白色筋線維の比率が高く、一方、じっと立っている時に使う足の筋肉のヒラメ筋や、息を吸ったり吐いたりするときに使う横隔膜筋などゆっくりとした動作をする筋肉は写真3のような赤色筋線維の比率が高い構成になっているのです。また同じ部位の筋肉でも運動量によってその比率が異なります。例えば長い距離を飛ぶ渡り烏は羽を動かす筋肉すなわち胸筋を長時間使わなければならないので、胸筋は赤色筋線維の比率が高く写真3のようになっています。しかし空を飛ばないニワトリの胸筋(マーケットで売っている‘ささみ’)は写真2のように白色筋線維の比率が高く見た目も白いのです。

ヒトでも大きな瞬発力が必要で、長くても数十秒で勝負がつく相撲力士の筋肉は白色筋線維の比率が高く、反対に持久力の必要なマラソン選手の筋肉は赤色筋線維の比率が高くなっているのです。また、運動選手のように適切な練習を続ける事によって、筋線維の割合を変化させ、それぞれの運動に適した筋肉を作ることもできるのです。
(田中 聡)

 
   
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