-下北の海で捕集材料の性能試験進む-

 現在日本の発電量の約1/3は原子力で賄われています。原子力発電の燃料はウランです。そのウラン資源について調べてみました。
 海水の中には、海水1トン当たりナトリウム(Na)が約10kg、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)等が約2kg含まれていますが、この他に極微量ながらウラン(U)やチタン(T)、パナジウム(V)、コバルト(Co)などの有用希少金属資源がそれぞれ1〜3mg溶け込んでいると言われています。この海水中のウランを採りだす研究はイギリス、ドイツ、中国などで行われてきました。わが国でも、通産省の金属鉱業事業団が香川県仁尾町に実験プラントを建設して実証試験を行ってきました。海水全体のウランの溶存総量は約45億トンと膨大であり、陸地に埋蔵されているウランの約1千倍以上と試算されていますが、海水中では極めて低濃度で存在しているため、従来の技術では海水からウランを回収することは経済的に割に合わないとされてきました。実用化のためには、“ウランを早く、たくさん、吸着する材料”の開発やウランの取り込みに海流などの自然力を利用するシステムの開発等いくつかの課題の解決が必要とされていました。
 日本原子力研究所高崎研究所で放射線を使って開発したウラン捕集材が基礎実験の結果大変有望であることが分かり、現在青森県むつ市関根浜の沖合い6kmの海中でこの新材料の性能評価のための試験が行われていますのでご紹介します。


写真1:ウラン吸着容器に充填される海水ウラン
捕集材・アミドキシム樹脂

新しい材料の特徴
 新しく開発されたウラン捕集材は、タンカーの事故の際にお馴染みのオイルフェンスの材料であるポリプロエチレンと呼ばれるプラスチックのフェルト状の布に放射線(電子線)を当てて造られます。この素材に放射線を当てることにより、分子の反応性を高めて、これにアクリロニトリル(アクリル樹脂の原料)という反応液を接触させるとアクリル系の枝が接ぎ木されます。これに更に化学処理を加えて合成されます。 (既存の繊維や布の素材に、放射線を使って新しい機能を化学的に接ぎ木する方法は、「放射線グラフト重合法」と呼ばれています。)
 この新しい材料(アミドキシム樹脂)は五つの特徴をもっています。
【1】海水中に浮遊している極微量の溶存ウランを、選択吸着してくれる。
【2】ウランを早く、たくさん吸着してくれる。
【3】ウラン捕集能が高いので、自然海流や波力を有効に利用できる。
【4】海洋環境での耐久性に優れ、また環境を汚染しない。
【5】吸着したウランやチタンは樹脂を塩酸で洗うことにより、簡単に回収できる。塩酸の濃度を変えるこ
とにより、ウランやチタンを別々に分離回収できる。


第1図 :むつ市沖の海底で実験中の海水ウラン捕集システムの概念図と海上の表示灯。
海水ウランの捕集システム
 関根浜沖で性能試験中の海水ウラン捕集システムは、日本の伝統技術である真珠貝の養殖法を応用した方法で、真珠貝の籠に放射線グラフト重合技術を応用して合成した海水ウラン捕集材を充填し、自然の海流や波に漂わせてウランを取り込むようになっている。その概念図と海上のブイ及び表示灯の写真を第1図に紹介します。
  海水中の微量希少資源を採っても、また海底の地殻からしみ出てくると言われていますので、この方法は、自然のバランスを崩さない地球環境にも優しい技術と言えるかも知れません。陸上に存在するウランは、あと約30年〜50年で枯渇すると言われています。海水中からウランを採取するこの技術の更なる発展が期待されます。
(吉沢 清)
 
本稿の執筆に当たり、写真の提供も含め、日本原子力研究所高崎研究所材料開発部照射利用開発室長須郷高信氏にご協力を頂きました。謝意を表します。  
   
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