毎日の生活で皆さんが必す利用し、無くてはならないものは何かと聞かれたら、トイレを挙げられる方が多いと思います。これは人間が生活していくために食事で栄養を獲得し、体内で利用された後、最終の産物として大便や小便の形で体外に排泄しなければならないからです。
 では、家庭のトイレで排泄された大便や小便は一体どこにいってしまうのでしょうか。


図1
 川や池の自浄作用と汚濁化

浄化槽の役割
 トイレで出された大便や小便は、最終的に近くの湖沼や河川を通って海に流れていきます。昔は、ほとんどがそのまま放流され、自浄作用と呼ばれる自然が本来持っている能力で浄化されていました。自浄作用というのは図1(a)のようにその水域に生息する生物の食物連鎖によって処理する能力です。ます、微生物がこれらの汚濁物質を栄養源として消費する一方、魚などの生物がこれらの微生物を食べ、微生物の増殖を抑えることにより、水環境の生態系バランスが崩されることなく、結果的に汚濁物質が浄化されていました。しかし、現在では開発による自然破壊や人□増加、そして人間のライフスタイルの向上などの影響で、汚濁物質の質は変化し、流入量も増加しました。そのため、図1(b)のように汚濁物質をそのまま放流すると、微生物が著しく増殖して水中に溶存している酸素を消費して魚が棲息できない環境になって、その水環境の生態系は崩壊してしまいます。
 このような問題を解決するため、家庭からの排水は一旦浄化槽で処理してから自然の水域に流されるようになりました。浄化槽には、トイレの排水のみを処理する単独浄化槽と、トイレだけでなくお風呂や台所で使った水(生活雑排水)等も処理する合併浄化槽に分けられます。この浄化槽は家の周りの地面に埋められていますので、全体を見ることはできませんが、地面にマンホールのような蓋が1つか2つついている所が浄化槽の上部にあたります。

浄化槽の構造と機能
 浄化槽では家庭から排出される汚水を微生物の力によって処理しています。浄化槽の構造はそれぞれ違いますが、図2のように3つか4つの部屋に分けられています。一般的に、まず排水は嫌気槽と呼ばれる部屋に入ります。ここには、空気を嫌う微生物が住んでいて、汚水中の有機物を食べています。人間から見れば、有機物を分解していることになります。次の槽は、好気槽といいます。この部屋には、酸素が無いと生きられない微生物が住んでいます。そのため、全体に空気を送って、汚水中に酸素が十分に溶けているようにしなければなりません。嫌気槽から送られた汚水は、ここで更に分解され、有機物をできるだけ二酸化炭素に変換します。これを無機化といいます。
 この有機物が無機化する度合いは、BODという方法で分かります。BODとは、生物学的酸素要求量の略で、微生物が有機物を食べる(分解する)のに必要な酸素の量を表したものです。有機物の量が少なくなるにつれ、BODの値は減少します。
 このように汚水は浄化槽で処理されると無機化され、BOD値の減少、つまり微生物のエサとなる有機物の量が減ります。また、有機物が減ると微生物が消費する酸素も少なくなるので、自然の水域に放流されても、そこに棲息する微生物が繁殖しすぎることや、魚が酸欠で死ぬ事もなくなり水域を清浄に保つことができるのです。


嫌気槽
好気槽
沈殿槽・消毒槽
 家庭から出た汚水には、複雑な有機物がたくさん入っています。嫌気性細菌は、この有機物から酸素を取り込みながら分解し、簡単な組成の有機物や二酸化炭素に変えます。  嫌気槽で処理された汚水は好気槽の中の好気性細菌によってさらに分解されます。
 この菌は、水中に酸素がないと活動できません。そこで好気槽の底にはブロワと呼ばれるポンプがついていて、ここから空気を流しています。

 汚水は嫌気槽と好気槽で処理され、できるだけ有機物の少ない水にして排水されます。
 排水中に有機物の量が少なければ、微生物が増えないので自然の水を汚すことはありません。

図2 浄化槽の構造

 以前から湖や川の汚濁が問題にされ、その原因の約7割が家庭からの生活排水とまで言われています。浄化槽を設置しているから大丈夫ではなく、定期的にメンテナンスを行うことが必要です。これをしないと浄化槽の能力は衰え、かえって汚濁の原因にもなってしまいます。
 トイレや台所の排水溝は自然への入り口です。自分の出した汚水が、最終的にどこへ流れていくのか調べてみてはどうでしょうか。
(坂田 洋)

 
   
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