図1 大腿骨への荷重

 最近では日本人の平均寿命が延びてきているのに従って、健康に対する高齢化の影響が心配されていますが、特に高齢者の間で、骨がもろくなって骨折などの原因になる骨粗鬆症(こつそしょうしょう)が、頻繁に取りざたされるようになってきました。このように、現在、骨の強度とその維持が社会的に興味を集めています。骨粗鬆症(こつそしょうしょう)は異常に骨密度が減少する病気ですが、健康な人でも骨は溶かされています。私たちの体内では、常に古い骨が溶かされ、その分新しい骨がつくられて、生まれ変わり、骨の健康が保たれています。
 では、どうして骨はもろくなってしまうのでしょうか。もちろん、食生活の変化で、骨の原料となるカルシウムが不足しているというのも一つの原因と考えられます。最近では若い人の中でも、無理なダイエットによる栄養不足からカルシウムが不足し、骨の密度が高齢者レベル並に落ちているという困った事態も発生しています。このような人たちは、高齢者と同様、ちょっとした衝撃でも、いとも簡単に骨が折れてしまうという危険を抱えてしまっています。このように、カルシウムは骨そのものの量を左右する重要なものですが、もう一つ、特に骨の強度に関わる重要なことがあります。それは私たちの骨が外から受ける力です。この骨の強度を保つしくみと関係が深いと考えられる興味深い話があります。みなさんの中にも知っている方がいらっしゃるかと思いますが、スペースシャトルの乗組員の話です。
 スペースシャトルは大気圏外に打ち上げられて再び地球上に帰還するまで、無重力の状態にいなくてはなりません。実はこの無重力状態がくせ者なのです。地球に帰還した乗組員の身体を調べてみると、健康な人に比べ骨の強度が著しく落ちていることがわかりました。 これはなぜでしょう。図1を見てください。地球上には重力が存在します。重力のため、直立している人間の下半身には、上半身の体重がのしかかります。特に、上体と足とをつなぐ大腿骨の関節は、動きをスムーズにするため、くの字型についていますから、非常に大きな力が加わります。普通に持ったら軽い物でも、斜め上に腕を伸ばして持つと重く感じるはずです。その荷物を上半身に置き換えれば、大腿骨への力のかかり方が想像できると思います。図2は大腿骨の断面と、そのX線写真です。大腿骨の外側は堅い骨組織が密に形成され、穀のようになっていますが、内部は海綿状の構造をしています。これは強度を保ったまま重量を減らすためのしくみだと考えられています。

 左側の断面を見ただけでは、スポンジのようで弱々しく思えますが、X線を用いると、肉眼だけではわからなかった内部の構造が見えてきます。右側がそのX線写真ですが、力のかかる方向に向かって幾筋もの繊維質の骨組織が成長しているのがわかると思います。ちょうど段ボールの縦方向に強度を持たせるために入れてある波形の中材のように、縦に延びているものや、上からのしかかってくる力に耐えられるよう、梁(はり)のように発達した構造が見られます。このように、骨は力のかかる部分で発達する性質があります。

 
 

図2 大腿骨の断面とX線写真

 

 地球上では重力によって、どんな姿勢でも自然に骨に力がかかります。しかし、宇宙空間の無重力状態では外から力が加わることはありません。このため、私たちの体は骨をつくるのをやめてしまいます。スペースシャトルの乗組員が、無重力で操縦室に浮かびながら、足踏みなどの運動をしている映像を目にしたことがある人もいるのではないでしょうか。これには内部から力を加えることで骨をつくらせて骨の減少を防ごうとする意味もあるのです。また、地球上でも、病気で長く入院したりして体を動かすことができないと、骨の強度も低下するといわれます。重力だけでは十分ではないのです。運動をしていないと骨はどんどんおとろえていきます。
 このように、骨の健康を保つためには、カルシウムを十分含んだバランスの良い食生活はもちろんですが、適度に運動することも重要なことなのです。
(白田 勝利)

 
   
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