36号に掲載した、骨の話・その1では、骨の発達にヒトが外から受ける力が大切なことを述べました。宇宙空間での無重力状態や、運動不足などで骨に力がかからなくなると、骨密度が減少し、骨がやせてもろくなる危険性があります。健康な成人では、骨がつくられる量 と、溶かされて吸収される量が釣り合っていて、そのバランスによって常に骨が若々しく保たれています。骨は、その堅さのために、一度つくられると新陳代謝(しんちんたいしゃ)が行われないように思ってしまいがちですが、骨も生き続けている組織なのです。10代に迎える成長期や、骨折した箇所が治る時など、骨の成長が必要な時期には、そのバランスが骨をつくる方向に傾いて、骨を伸ばしたり、より強い骨をつくったりします。これとは反対に、高齢になって老化したり、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)などの病気にかかったりすると、このバランスが崩れて骨が溶かされる方向に傾きます。この骨のつくられる量と溶かされる量のバランスによって健康にも病気にもなるというわけです。
 では、どんなしくみで骨の量は調節されているのでしょうか。私たちの骨格を形づくっている骨は、骨細胞(こつさいぼう)という小さな細胞と、その周りに蓄えられたコラーゲンやアパタイトという物質からできています。コラーゲンは、皮膚や軟骨など弾力のある部分に多く含まれるタンパク質で、骨にも弾力を与えて折れにくくする働きがあります。アパタイトは歯の成分としてご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、堅い組織の原料となる、カルシウムを含んだ物質です。骨細胞(こつさいぼう)は、骨芽細胞(こつがさいぼう)という骨細胞(こつさいぼう)のもとになる細胞がアパタイトを貯め込んだ結果できたものです。このため、実際に骨をつくる作業にあたっているのは、骨芽細胞ということになります。
 それでは、せっかく骨芽細胞がつくりあげた堅い骨を溶かしてしまうのはいったい何者なのでしょうか。実は骨を溶かすのも細胞なのです。私たちの体の中では、破骨細胞(はこつさいぼう)という細胞が絶えず古い骨質を溶かし続けています(図1)。

図1 骨を形づくる細胞たち

 破骨細胞(はこつさいぼう)は文字通り、骨をこわす細胞という意味で名付けられていますが、実際には、骨をかじって砕いたりしているわけではなく、骨質を溶かす酵素を放出したり、骨と接する部分を酸性にしたりして骨を溶かしています。図2に示す写真はマウスから分離した破骨細胞(はこつさいぼう)です。赤紫に染まっているのは、破骨細胞に独特な、酸に強い酵素を染め分けているからです。この他にも、破骨細胞の大きな特徹として、1個の細胞の中に核がたくさんあることが挙げられます。図2の写真で丸く青っぽく染まって見えているものが核ですが、私たちの体をつくっている細胞の多くは核が1つしかありません。しかし、図1や図2からわかるように、破骨細胞にはその核が幾つもあります。その数は決まっていませんが、いくつもの細胞が融合して1つの細胞がつくられる珍しい細胞なのです。

図2 マウスの破骨細胞
図2 破骨細胞が骨を吸収した痕(あと)

 破骨細胞は骨を溶かすことのできる細胞です。破骨細胞を骨の薄片にのせて培養すると、骨を吸収する様子を観察することができます。図3に示す写真は、破骨細胞を骨片の上で培養した後の骨片を染めたものです。写真の所々に見られる濃く染まったところは、破骨細胞が骨を溶かしたところです。骨が溶かされた部分はギザギザに複雑な形になるため、周囲の滑らかな面より濃く染まって見えます。
 健康な成人では、1年間に5%〜10%の骨組織が新しい骨組織に置き換わるといわれています。つまり、1年間でそれだけの量の骨が溶かされているということになります。溶かされた骨は血液にとけ込んで、また新たな骨の材料として利用されたり、ホルモンなどの作用を助けるカルシウム源として利用されたりしています。このため、ホルモンバランスが崩れたり、カルシウムの摂取が足りなかったりすると、積極的に骨が溶かされてしまうこともあります。最近よく耳にする骨粗鬆症なども、多かれ少なかれ、こういったことが原因でおこる可能性も考えられます。
 このように、破骨細胞は理由もなく骨を破壊してしまう細胞ではありません。食生活やホルモンのバランスなどによって、私たち自身がその働きを乱している場合も少なくないのです。骨組織は私たちが生きていく上で重要なカルシウムを蓄積し、また、必要なときにはそのカルシウムを供給しています。骨芽細胞と破骨細胞との連係プレーによって体内のカルシウムも調整されているのです。
(白田 勝利)

 
   
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