六ヶ所村の花に指定されているニッコウキスゲ(ゼンテイカ)は、植物学的にはキスゲ属に位 置し、学名をヘメロカリス・ミッデンドルフィと呼びます。キスゲの仲間は華麗ですが1日しか咲かない花であり、英名では『1日ゆり(day lily)』と呼ばれています。属名のヘメロカリスもギリシャ語の1日(hemera)と美しい(Kallos)を合成したものです。花は昼咲き、夜咲き、昼夜咲きのタイプが区別 されており、多くの園芸品種がヨーロッパ、米国を中心に改良されています。いずれも、日本から外国に渡り、美しく改良されて里帰りした植物です。
 ニッコウキスゲは、初夏に橙黄色の花を早朝から夕刻にかけて咲かせます。本州中部では高地の湿原に自生し、日光の尾瀬沼や長野の霧ヶ峰などで大群落を作り、その美しさは多くの人たちに愛されています。本州北部や北海道では低地でも群落を形成し、ここ六ヶ所村でもいたるところで群落を形成し、特に平沼の塩沼湿地帯や泊の海岸線沿いで美しい群落が見られます。

ニッコウキスゲの花
平沼の塩沼湿地帯に見られるニッコウキスゲの大群落
泊の海岸線沿いに見られるニッコウキスゲの群落

 一般にいう「萱草(かんぞう)」は、花弁が幾重にも重なって咲く八重咲きのヤブカンゾウをさし、六ヶ所村でも初夏に水田や畑の傍など、一面 の緑の草原に橙赤色の炎の様な花を咲かせる姿を時々見ることができます。ヤブカンゾウは中国原産で日本各地に野性化しています。その芽吹きを山菜として食したり、花を乾燥させて貯蔵食にしたり、根茎を薬用にしたりしたことから、人里近くに自生していることが多いのです。下北や南部地方ではその若芽をかんぞう、かこなと呼び、山菜として親しまれています。中華食材店や観光地などで「ユリの花」、「金針菜」と呼ばれて販売しているものは、これに良く似たホンカンゾウやユウスゲの花を乾燥させたものです。なお、漢方で言うカンゾウは「甘草」と書き、マメ科の全く別 の植物なのです。このヤブカンゾウの花を一重にしたものがノカンゾウ(野萱草)で、原野に生えていることが多いようです。
 西日本ではススキ原野などに、夏、夕方から早朝にかけて淡黄色、レモン色で芳香のあるユウスゲが咲きます。  古くから園芸で利用されていたトウカンゾウは、その名前から中国原産と思われていましたが、長崎県の男女群島にだけ自生するものであったことがわかりました。現地は大変変異に富んでいる種を保存しており、キスゲ属の遺伝子の中心地として現在でも多くの変種を生み出している地域であると考えられています。その中から偶然一つの系統がその美しさゆえに持ち出され、古くから園芸植物として栽培されていたのです。 鮮やかな橙黄色、花弁のすっきりした形、葉の緑とのコントラストなどのその美しさに魅了されたシーボルトがヨーロッパに持ち帰り、世界中に広がったようです。

ヤブカンゾウ
(週間朝日百科、植物の世界111号、1996年より引用)
アメリカのヘメロカリスの園芸品種
(週間朝日百科、世界の植物100号、1977年より引用)

 日本特産のトウカンゾウ、ニッコウキスゲ、ユウスゲ、ノカンゾウ、ヤブカンゾウなどのキスゲの仲間は、面 白いことに種間の交雑が自由で開花時期さえ一致すれば、すべての種間で雑種ができます。したがって、米国でどんどん交配が進み、多くの品種が生み出され、最近になってそれらがヘメロカリスとオシャレな名前に変わって、里帰りしているのです。
 こうした雑種の形成が自然状態でも起きている例を二つあげましょう。自然状態では夜に咲くユウスゲと昼咲きのノカンゾウの交配は、その咲く時間ゆえ雑種形成は抑えられていますが、場所によっては雑種が多産する所があり(岐阜、高山地方)、曇天が多いことが原因となり、ノカンゾウの残花と開花時間が早くなったユウスゲの間で時間的隔離が壊れ、雑種が生じていると考えられています。また、レモン色のエゾキスゲは北海道の海岸に多く、橙黄色のエゾゼンテイカは低地の湿原又は高山に自生し、空間的隔離を生じています。北海道の釧路、大楽毛(オタノシケ)の海岸砂丘近くの湿原にはこの二種の雑種集団が多く見られます。これは人為による水位 の低下を原因に湿地が砂丘化・乾燥化しエゾキスゲの内陸部への移住が生じ、雑種が生じているものと考えられています。
 蛇足になりますが、こうしたニッコウキスゲの仲間を六ヶ所村に集め、栽培し、交配を繰り返したならば、六ヶ所村の道沿いや公園に様々な時期に様々な色合いで咲き誇る「ロッカショキスゲ」が生まれ、きっと多くの人たちを幸せな気持ちにすることでしょう。
(山上  睦)

 
   
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