食事の必要性
 一人前に育ち、勉強や仕事をし、楽しみや生きがいを見つけて、有意義な人生を送ることが幸せな一生と言えるでしょう。そのためには体の健康を維持することを忘れがちになります。健康とは普通の生活が出来る状態のことをいいます。私たちは毎日食事をする事が当たり前になっていますが、健康維持に一番重要なのが食事の内容なのです。
 よく知られているように、炭水化物、蛋白質、脂肪、ビタミン、ミネラルを必要量 取らなければなりません。環境研には閉鎖型生態系実験施設(CEEF)があり、人間や植物が閉じ込められる人工の生態系になっています。この施設は表1に示す人間の栄養要求を満たすことを前提として設計されました。

蛋白質
65.5g

10mg
ビタミンB2
1.72mg
脂 肪
95.4g

3mg
ビタミンB6
2.2mg
炭水化物
357.7g
マンガン
0.3mg
ビタミンB12
3μg
カリウム
3.75g
ヨウ素
150μg
ナイアシン
19mg
カルシウム
0.8g
セレン
125μg
パントテン酸
8mg
リ ン
0.8g
イオウ
1g
ビチオン
150μg
マグネシウム
350mg
ビタミンA
2000IU
葉酸
400μg
亜 鉛
15mg
ビタミンB1
1.43mg
ビタミンC
60mg
図1 1日の物質の出入り(NASA)
表1 成人男性の1日に必要とする主な栄養素

食事内容と病気

 12世紀の哲学者マイモニデスは「食事だけで治せる病気はすべて他の方法で治療すべきではない」と言っています。ある栄養素が不足したり、過剰であるがために起こる病気は薬や手術で治るとは考えられません。特に、成人病や生活習慣病と言われるものの中にはこれに類したものが多いのです。豊かな生活を享受しているグルメの時代には戒めとして心にとどめて置く必要があるでしょう。バランスのとれた適量の食事が何よりと言っているのです。「食べ物で治らない病気は医者でも治せない」これは医学の祖・古代ギリシャのピポクラテスの言葉です。

物質の入出力バランス

 人は食事をし、排泄をします。つまり、体に入力する物質と出力する物質があり、成人に達した場合には入力と出力の量に差が出てくると問題があると言えます。出力が少なけれぼ肥満になり、多ければやせることを意味します。成人男性の理想的な一日当りの物質の入出の例を図1に示します。
 呼吸で吸う酸素は食料を酸化して、すなわち燃焼して、活動源となるエネルギー(カロリー)を得ています。食料は大部分が有機物であり、燃焼することで、炭酸ガスと水になり、不消化なものは糞となります。食べ過ぎた分は体に残り肥満の元になるのです。たくさん食事をしたからといって、それに応じてたくさん酸素を吸うことはないのです。

栄養となる元素

 表2は人間に必要な栄養に含まれる元素を示しています。これらの元素は肉体の材料や生理代謝機能に関係します。栄養の大部分である炭水化物、蛋白質、脂肪は主要元素(O,C,H,N)から成り、準主要元素(Ca,P,S,K,Na,Cl,Mg)はミネラルとも言われているもので、中でもCaは骨や歯の材料であり、NaやClは食塩の成分である。その他に、微量ではあるが必須な栄養として、微量元素(Fe,Zn,Cu,Cr,Co,Se,Mn,Mo,∨,I,Br,Ni,Cd,As,Sn,Si,F,Li,B,Sr)というものがあります。微量 元素の中には有毒元素として知られているものが多く、多目にとると毒性が現れます。工業的には有用であるが、食品添加物、公害、有害廃棄物等で問題になる元素でもあります。
表2 人間に必要な栄養に含まれる元素
地球環境と元素
 主要元素は空気や水のように我々の周りに多く存在しています。生物の体も大部分が主要元素からなる有機物でできています。生物は環境に存在する元素をうまく利用して、長い年月をかけて人類まで進化して来ました。他の多くの元素は環境の中にはわずかしか存在しません。自然の土壌や岩石は一般的には安全な化合物の形で存在し、生物に悪影響を及ぼすことは少ないのです。
 人類が科学技術を発展させ、その成果が生活を便利にし、人口増とともに長寿を実現するようになりましたが、その過程で地球環境が悪化してきました。廃棄物を含む人工的物質の環境への堆積は自然破壊が進むだけではなく、生物にとって有害となり、そのような有害な物質が生物の体に浸入してくることで、人間を含む生物の健康を蝕むようになってきたのです。
 自然環境は様々な生物が関係して作られています。しかしながら、人間は生活の場とするため、また、事業を行うために自然環境を破壊することが現在でも続いています。良い自然環境とはいろいろな生物が生息できる環境です。そのような環境ではそこにいる生物が必要とする食料になる生物が存在することで、食物連鎖が存在する環境なのです。我々の周囲にあるそのような環境は、是非、護らなければなりません。(写 真1)
写真1 尾駮沼の白鳥の親子(遠方にCEEFを見る)
写真2 キバガレイ鍋料理
(写真:六ヶ所村商工観光課提供)
六ヶ所村、泊地区に古くから伝わる家庭料理

食文化

 人間は他の生物と異なり、食事の内容は時代と共に変わってきました。国や地方により特有な食文化(食材、調理法)があり、悪い食文化は、長続きしません。伝統のある食文化は健康にも良いことが、最近、科学的にも証明されてきました。ヘルシーと国際的にも言われている和食は戦後になってから確立されたものですが、自給率で見ると洋食が15%であるのに対し、和食は85%で、体のためにも経済的な面でも和食を見直したいものです。(写真2)
 現代はまた、調理技術の発展もあって、人間だけが美味しい食事を作って食べることが出来ます。おいしい味は免疫力を増強する利点がありますが、栄養のバランスを崩さないことが肝要です。

健康作り

 健康を維持するには食事のほかに、適度な運動を行うこと、必要な休養をとることにも注意を向ける必要があります。運動をすることで、体の各器官が連動して作用し、必要な機能を発揮して、体が強化され健康が維持されます。人も生物ですから、使わない器官は劣化してしまうのです。睡眠を含めた休養は体から疲れを取り除さ、心身共に次の活動体制を作ってくれます。食事は消化吸収されて体の役に立ちます。ですから、歯や消化器の健康には十分に気を使う必要があります。年老いてくると消化能力等は落ちてきますが、体力は必要ないからといって、食事の量 を減らさず、新鮮な食材を選ぶのが長寿につながるでしょう。
(芦田 章)
 
   
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