世界の人口は増加を続け、一人当たりのエネルギー消費量も増大しています。例えば、わが国の食糧自給率を維持するためにも、エネルギーの安価で十分な供給が必要です。農業生産に限らず、生活水準の維持にはエネルギーの確保は不可欠です。しかし、このエネルギーの供給はどのように可能でしょうか。
 97年度のわが国の一次エネルギーのうち、化石燃料(石油、石炭、LNG)以外のエネルギー源は、原子力12.9%、水力その他4.1%で、資源の節減、地球温暖化防止などのために、その利用の拡大が望まれます。  そのような非化石燃料エネルギーの利用拡大に期待されているのが、水素エネルギーです。水素は、自然界に多量にある水を分解して製造することが出来ます。 水素は燃焼してエネルギーを出した後、水に戻りますから、自然環境への影響はありません。また、水素は、加圧ガス、液体水素あるいは水素化合物として、容易に貯蔵、輸送、利用することが出来ます。水素には、現在でも広い用途がありますが、大量 、安価に供給されるなら、自動車、航空機、船舶などの輸送分野、石油化学工業などの工業分野、直接の燃料利用や燃料電池による発電の分野などで、温室効果ガスである二酸化炭素の排出のないクリーンエネルギーとして、社会に広く用いられることでしょう。特に、水素は、貯蔵できるエネルギー(正確にはエネルギー源物質)であるため、電気、あるいは熱エネルギーの貯蔵に利用できることは重要です。
 水素の利用にあたっては、その安全性(特徴的には1938年の飛行船ヒンデンブルグ号の火災事故から、極端に危険性の恐怖を感じる「ヒンデンブルグ・シンドローム」とも呼ばれる見方が恨強いですが、現在広く用いられている天然ガスの利用と、安全性において大差ない、と言われています)は、確保できると考えられ、多くの技術について安全な利用が可能と考えられています。

 
 

水素エネルギーシステムの構成

 

 さて、この水素をどのようにして大量、安価に製造するかが問題です。製造のために必要なエネルギーを二酸化炭素を排出せずに、クリーンに供給しようとするなら、太陽エネルギーなどの自然エネルギー、および原子力エネルギーが適当です。太陽光発電、風力発電などの自然エネルギーは出力がつねに変動することが大きな問題ですが、一度、水の電気分解を行なって水素の形にしてから利用するなら、極めて安定なエネルギーとして使えるでしょう。原子力エネルギーでは、現在発電に使われている軽水炉からの夜間電力(昼間の電力を供給するため、揚水発電に使われる)、あるいはより効率的な利用も可能な高温ガス炉からの熱エネルギーは、大規模なエネルギー供給に適しています。

ビル屋上の太陽光発電装置
(東北電力(株)。仙台市設置)
竜飛ウインドパーク
(東北電力(株)。青森県三厩村設置)
高温工学試験研究炉(日本原子力研究所。茨城県大洗町設置)
 現在、自然エネルギー利用も大規模化が進みつつあり、水素製造との組み合わせによる出力の安定化は、より重要になるでしょう。また、一種の電力貯蔵法である揚水発電のための適地は十分でなく、立地の自由度が高い水素エネルギーの利用には、大きな魅力があります。安全性が高く、エネルギー利用効率も高い高温ガス炉は、将来の原子炉として期待されます。わが国では、熱出力3万キロワットの高温工学試験研究炉が、日本原子力研究所により、茨城県の大洗町に設置されて98年11月、初臨界となりました。ここでは、水素製造を大きな目標の一つとして、高温ガス炉技術の開発が進められています。
(佐藤 章一)
 

高温工学試験研究炉の写真は日本原子力研究所から、太陽光発電装置及び風力発電の写 真は東北電力(株)から、それぞれご提供を頂き掲載したものです。ここに謝意を表します。

 
   
topへ戻るインデックス