「月は地球の兄弟?」

 9月9日(陰暦の8月15日)は仲秋の名月でした。 幼い頃、月には兎(うさぎ)や蟹(かに)が住んでいるという話を聞かされ本当に信じていた人もいるでしょう。では、本当に月には兎や蟹が住んでいるのでしょうか。その答えは、夢物語やおとぎ話や昔話、伝承、文学などの世界では「はい」です。それらの世界では、その方が夢があったり想像を膨らませられたり、たとえ話ができたりするからです。でも、実際に月のことを調べたり研究したりする「科学」の世界では、答えは「いいえ」です。「科学」は事実をしっかり調べて私たち人間を含む宇宙や自然、生き物、社会、歴史、人間の心などがどうなっているのかを知ろうとする学問です。
 今回は、月の「科学」のお話をしたいと思います。

〔月の不思議〕
 月は地球の衛星です。1969年にアメリカ合衆国のロケット「アポロ11号」に乗った宇宙飛行士が、世界で始めて月に着陸しました。しかし、彼らがそこで見たものは、生き物の全く住めない世界でした。空気はほとんどなく、昼も夜も宇宙から宇宙線(高エネルギーの素粒子や原子核のことで、主に陽子やアルファ線)が数は少なくとも、のべつまくなし降ってきます。また、昼間は太陽からの強い紫外線や放射線(太陽からやってくる陽子や電子などの太陽風とエックス線やガンマ線)が降り注ぎ、夜は零下百数十度にもなる死の世界です。ですから、兎や蟹だけでなく人間も住めません。
 そんな月は、直径が地球の約四分の一(1738km)の天体です。地球に対して月のこの大きさは大きすぎる、と昔から天文学者の間では言われていました。なぜなら地球以外の惑星の衛星は、自分の母惑星に比べてどれも大変小さいからです(冥王星では例外)。そこで、月はもともと地球といっしょにできたのではなく、太陽系内の別の場所で生まれた後、たまたま近くを通った時に地球の引力に捕まったのではないかという「月の他人説」がとなえられました。このほかにも地球と月がいっしょにできたとする「兄弟説」や、地球が昔溶けて熱かった頃は自転速度が速かったので、一部がちぎれて月になったとする「親子説」もあります。しかし、どれも科学の検証にじゅうぶん耐えられる魅力的な仮説ではありませんでした。つまり、月の起源はよくわからなかったのです。
 ところが最近、「巨大衝突説」という新しい説が出てきて、科学者たちを興奮させています
※仲秋の名月とは陰暦8月15日の満月のこと。 (マントルは個体ですが、数百万年前という時間で見ると液体のようにゆっくり対流していると考えられます。)
地球の内部構造:表面の薄い皮は地穀。地殻と液体の核の間にマントル層がある。深さは、地殻の底(海で5km、大陸で35km)から約2900kmまで。
〔巨大衝突説〕
 この説は、原始の地球に火星ぐらいの大きさの微惑星が衝突し、両方のマントルの一部が宇宙空間へ飛び散った後に再び集合して月になったというものです。 最近、この説の改良版として、衝突は一回ではなく火星や水星ぐらいの微惑星の衝突が小さな規模で数回ほどあったという説が出てきました。そして、その説の方が、現在の地球と月の内部構造や化学組成などの研究結果をよく説明できそうだと分ったのです。つまり、月は地球のマントルが起源だというわけです。現在、この改良版の説を確かめるために、日本(文部省宇宙科学研究所の月探査計画)やアメリカ、ヨーロッパ、ロシアをはじめとして世界中の国の科学者が研究を行っています。
 月には、起源の問題以外にも、クレーターや月面の各所で謎の発光現象(UFOではない!)が見えたり、月の潮汐力が海の潮の満ち干という形で珊瑚(さんご)や蟹など地球の動物の生活リズムに影響を与えたり、月の表と裏では地殻の厚さが違うなどまだまだ不思議なことがありますが、これらについては、別の機会にまたお話したいと思います。
(斎藤 幹男)
 
 月面の写真は、文部省宇宙科学研究所データセンタ−の御好意によりお借りした資料写真の中から、許可を得て掲載したものです。
 また、地球の断面園は、科学技術庁のパンフレット「足もとからの備え 原子力施設の地震対策」から一部を転載しました。ここに謝意を表します。
 
   
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