10月26日は原子力の日です。この日には、原子力に関係する機関や企業等で原子力平和利用堆進のために、原子力についての理解と認識を深める記念行事が行われます。今回は、原子力の平和利用に関連して考えていることを述べてみたいと思います。

〔「原子力の日」が決められた理由〕
 10月26日が原子力の日に選ばれたのは、昭和38年に日本原子力研究所の動力試験炉(JPDR)で日本で最初の原子力による発電に成功した日であり、また、昭和31年に日本が国際連合の専門機関の一つである国際原子力機関(IAEA)への参加を決めた記念すべき日でもあるという理由からです。
 昭和31年という年は、戦後日本で初めて原子力予算が認められ、原子力の平和利用に新たなスタートを切った年です。米国、ソ連、英国では核爆発実験を続けていましたが、原子力を世界の平和のために利用することを日指す国際的な機関の必要性がさけばれ、IAEA憲章が国連総会で採択された年でもあります。そして10月26日には、日本を含む70カ国で憲章に署名がなされ、原子力の平和利用の国際協力が大きな広がりを持つことになりました。10月26日のJPDRでの原子力発電は、IAEA参加の日を強く意識して計画されたように思われます。

写真左:動力試験炉(JPDR) 写真右:JPDRの解体作業
JPDRは、原子力発電所の建設、運転及び保守の経験を得ること、国産化に貢献することなどを目的に設置された試験炉です。昭和51年に原子炉の運転が終了し、現在は原子炉解体技術開発のため解体が進められ、最終段階を迎えています。

〔原子力平和利用の二つの柱〕
 原子力の平和利用というと、核分裂や核融合で生じる熱エネルギーの利用がまず考えられます。原子力白書によれば、平成6年6月現在で世界の30カ国(地域)で原子力発電が行われ、日本では47基の商業用原子力発電所が稼働し、日本の商業発電量の31.2%を原子力発電が占めるまでになりました。
 原子力の平和利用のもう一つの大きな柱は、放射線の利用です。医療用のX線撮影は、診断には欠かせない手段の一つです。

種々の形状の制がん剤含有カプセル
(徐放性医薬品)


 低温下で放射線を照射し、薬物を適当な材料と混ぜあわせたカプセルにし、体内(患部)に埋め込むと、薬物を長時間、徐々に溶出させる医薬品をつくることができます。

〔放射線による滅菌及び工業利用〕
 放射線を物質にあてると、物質を構成している原子や分子を結びつけている力に作用して、原子や分子を切断したり結合したりすることが起こりやすい状態になり、様々な化学変化を引き起こします。こうした変化は物質の表面だけでなく、放射線が届く物質の内部でも起こります。このような放射線の力(化学変化を引き起こす力)は、滅菌や新しい物質の創成、品質向上等に利用されています。
 放射線を使った医療品の滅菌は、医療品を密閉包装のままできるので、薬物を使った滅菌のように、処理後に薬物が残ったりすることがありません。
 また、熱や薬品を加えたり、触媒を使わなくても化学変化を起こすことができるので、熱に弱いホルモンや抗体などの医薬品をカプセルに閉じ込めたりすることができます。
 さらに、放射線は直接、原子や分子に働きかけるので、普通の化学変化では起こりにくい物質の切断や結合ができ、新しい機能を持った物質を作り出したりすることができます。
 放射線の利用は、放射性物質や簡単な加速器でもできるものがあるので、世界中の国々で様々な用途に利用され、また新たな利用方法の研究開発が行われています。

〔放射線による食品照射〕
 放射線利用の話をすると、放射線により有害物質ができたり、放射線を止めてもその物質から放射線が出るのではないかという質問をよく受けます。特にじゃがいもの発芽防止(保存期間の延長)や殺菌などを自的とする食品照射では、このような心配をする人達がいます。しかし、照射を受けた食品から放斜線が出ることはありません。
 放射線が物質にあたってどのような変化が起こるのかは、放射線の種類や強さ(持っているエネルギーの大きさ)と放射線があたる物質によって決まります。 したがって放射線を利用する場合には、目的に応じて放射線の種類と強さを選ぶことになります。

 放射線利用に対し、不安を抱くだけでなく正しい知識を持ち、その特徴を生かし、有効に利用することを考えていく必要があると思います。
(小牧 晢)

 
JPDRの写真は、日本原子力研究所から提共を受け、許可を得て掲載したものです。
また、徐放性医薬品の写真は同研究所高崎研究所のパンフレットから転載しました。ここに謝意を表します。
 
   
topへ戻るインデックス