雪だるまをつくった話が「源氏物語」のなかにあります。雪を詠込んだ歌が「百人一首」のなかにも4首ほど見当ります。平安時代の貴族が、雪に「あまずら(甘味料)」をかけて客人をもてなしたという逸話もあります。歳時記には、雪にちなんだ行事が数多くあげられています。ウインタースポーツの花形、スキーは雪がなくては話になりません。「雪見酒」これは粋人にとっては欠かせません。ヒマラヤには「雪男」、遠野物語には「雪女」がでてきます。
 「雪月花」という言葉があるように、雪は美を代表するものでもあります。雪と雪とがくっついてできた大きな塊の降る雪を「牡丹雪」と呼んだのは、日本人の美的感受性の豊かさを示している、といえるでしょう。
 科学的にみれば、雪は気象現象のひとつにすぎません。雪は、微小な氷の結晶でできた雲粒が成長し、結晶の形を比較的よく保ったまま落下してくる降水粒子の一つです。雪の結晶は千差万別で、その形から針状 結晶、角板結晶、樹枝状結晶、十二花結晶、羊歯状結晶などがあります。これらの結晶が単独で降って来ることもありますが、組みあわされて結合している場合もあります。
 結晶の形は、落下する際の周囲の気温と水蒸気量によってきまります。したがって、降ってきた雪の結晶を観察することで、その雪が上空のどんな気象条件でつくられたかを知ることができます。こんなことから、「雪の結晶は、天から送られてきた手紙」ともいわれています。

樹枝状結晶
角板結晶

 どのくらいの雪が降っているか、これは「降雪量」であらわされます。一定時間内に「雪量計」に降った雪の量で、雪を溶かして「雨量ます」でその体積を計る場合と、天秤型雪量計でその重さを測る場合とがあります。いずれも降雪量は、雨量に換算して表されます。積もった雪から見ると、雪には弱い雪(0.5cm/hr以下)、並の雪(0.5〜4.Ocm/hr)、強い雪(4.Ocm/hr以上)があり、天気図に使われています。  環境研では、青森県からの委託により、雪、雨、霧などによって、どのような元素が、どのくらい運ばれてくるかを調査し、放射性元素の環境中移行現象を解明するための基礎データの蓄積とその解析を続けています。

「やませ雪」を採取した地点
 東北地方には「やませ」と呼ばれる特異な気象現象があります。「やませ」は、急激な気温変化に伴って起きる様々の現象の総称ともいえます。その中の一つとして六ヶ所村にも、冬も終わりに近づいた頃、海から陸地に向かって吹く東風にのって降る雪、いわゆる「やませ雪」があります。
 降ったばかりの「やませ雪」を採取し、溶かしたあとミリポアフィルター(ろ紙のようなもの)でろ過すると、フィルターの上には、黒い粒々が残ります。これは、雪が空気中の不溶性浮遊粒子を含んでいる証拠です。一万、ろ液は、透明で何も見えません。しかし、イオンクロマトグラフという分析装置を用いて、ろ液を分析してみると、Na(ナトリウム)、Cl(塩素)、K(カリウム)、SO4(硫酸イオン)NH4(アンモニウムイオン)、NO3(硝酸イオン)などの存在が確認できます。そしてその量は、海に近い地点が最も高く、内陸に入るに従って減少します。このように、東風とともに降る「やませ雪」は、海の影響を大きく受けているのです。
「やませ雪」の分析結果
 「富士の高嶺に降る雪も、京都先斗町に降る雪も、雪にかわりはないけれど・・・・・」といわれていますが、あたり一面に降った雪ですら分析化学的にみると、場所によっては同じ雪ではないのです。そして、一見純白に見えても地上の雪は、分析結果が示すように、実はそれほど「きれい」なものではありません。 「豪雪」「雪崩」「雪害」、冬になるとテレビや新聞紙上では雪の弊害を報じます。しかし、積雪はやがて「雪どけ水」となり、流水や地下水として我々の生活を潤します。青森県に、八甲田清水、厚目内の寒水、十和田霊泉、小杉沢の湧水など名水が多いのも、雪の恩恵といえるでしょう。
(星野 昭)

美しい雪の結晶の写真は、北海道大学低温科学研究所の古川義純先生の御好意により提供いただいたものです。ここに謝意を表します。
 
   
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