最近“日本で一番深い温泉”というキャッチフレーズで「六ヶ所温泉」がオープンし、話題になっています。私たちの住む日本は、狭い国土にたくさんの火山を抱えた、世界でも有数の温泉国です。私たちは、縄文時代からこの温泉に親しみ、今では、湯の花や入溶剤などで、家庭でも気軽に楽しめるようになりました。ところが、この「温泉」というものは、科学者が実験室で再現しようとしてもなかなかできない複雑怪奇なものなのです。

(温泉はどのようにしてできるのか)
 温泉ができるには何が必要だと思いますか。答えは簡単「水」と「熱」です。
 以前から「熱」は、火山活動を起こす「マグマ」に由来するものと考えられてきました。火山の近くに温泉が多いことを考えてみても、火山と温泉が深く関係していることは納得できますね。
 しかし「水」に関しては、有力な2つの説が論争を繰り返してきました。ひとつめは、温泉の湧出量が降水量に伴って変化する点に目をつけた「循環水説」(雨水が地下で温められて地表に戻ってくるという説)、ふたつめは、温泉の湧出量が降水量よりはるかに多いことに目をつけた「処女水説」(温泉の水は雨水ではなく、マグマから出てきた水であるという説)です。現在では、その両方が正しかったということが分かっています。つまり、雨水(海に近いところでは海水も)とマグマの水が混合したものが温泉水というわけなのです。もちろん火山とは無関係の温泉もあって、太古の海水が地底に閉じこめられた化石海水がボーリング(調査のために地表から地下に向かって穴を掘ること)の際に出てきた温泉や、放射性元素の崩壊熱(訳注)や地層運動などの摩擦熱で地下水が温められた温泉などがそうです。日本にはこのような温泉は少なく、多くは火山活動に関係しています。

(訳注)放射性元素が崩壊して他の元素に変化する時に出る熱のこと。

 
 

火山活動に関係した温泉ができる様子

 

(温泉と火山〜日本の場合)  それでは、火山大国・日本の温泉はどのようにして生まれたのでしょうか。これを解くためには、日本の地下構造に目を向ける必要があります。
 日本のような大陸と大洋の境目には、プレートと呼ばれる岩石でできた板のようなものが沈み込んでいます。その付近では、プレートとプレートが擦り合うために摩擦熱のようなものが生じ、マグマが発生して、それが地表付近まで上昇してマグマだまりという火山活動の巣を作ります。日本では、大規模な火山活動は太古の昔に終息しましたが、最高で千数百度にもなる地下のマグマは、まだ完全に冷えきってはいません。マグマは完全に冷えるまでの間、熱や火山性のガスを出し続けます。そして、その熱やガスに地下水が接触したとき、地下水は熱せられ、高圧になり、地下の割れ目を通って地表に向方って上昇してきます。これが温泉になるのです。この温泉水は、マグマに含まれている水(処女水)や他の成分、さらに、周りの岩石の成分を溶かし込んできます。上昇する時に、それぞれが違った割れ目を通ることになると、同じ温泉地なのに源泉ごとに成分が微妙に違ってきます。  

地下深くから湧き出した温泉水を貯蔵するタンク
(六ヶ所温泉)
火山の山麓から湧き出す温泉
(北海道・知床半島)

 青森県にもたくさんの温泉があります。そして、この中には今までお話ししてきたような火山と関係のある温泉が、もちろん含まれています。恐山などでは、熱い温泉水とくさいガスが地表に出てくる様子を間近で観察することができます。この温泉水やガスが、温泉はどうやってできたのかということのヒントになるのです。科学者たちはこんなヒントをできるだけたくさん集めて新しいことを考えていくのです。でも、温泉につかるときはなにも考えないでボーッとしているのが一番ですね。
(長谷川 英尚)

 
   
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