野良猫の撃退法として水をいれたペットボトルをおくのが、流行したことがあります。一時期、都会の住宅街でよく見られたものです。のぞくと、光線の具合でものが異様に見えることから、「おまじない」のように拡がったのでしょう。しかしこれが「火事」の原因になったことから下火になりました。ブロック塀の上におかれたペットボトルが凸レンズの働きをして太陽光線を集め、塀に立て掛けてあった廃材に火がついたのです(東京消防庁調べ)。また、水をいれた窓際の金魚鉢でも同じように火事が起きることはよく知られています。
 古代においても、水晶玉やガラス玉で同じようなことが見られ、その経験から凸レンズが作られました。 くぼんだ鏡(凹面鏡)や磨かれた金属容器がヒントになり凹レンズが作られました。
 17世紀にはオランダで、すでにガラス工業が盛んになっていて、レンズが商品として扱われています。眼鏡(近眼や老眼の)に対する需要はもともとありましたし、遠くを見るための贅沢品(遠めがね)が趣味的商品として出回りはじめました。これにいち早く目をつけたのがイタリアのガリレオ・ガリレイです。改良を加えた手製の光学機械で、木星に衛星のあることをみつけたりして世間をあっといわせたものです。これが望遠鏡の科学的な応用のはじまりです。顕微鏡のほうも、何だか分からないけれども面白いものを見て楽しむという趣味(三省堂「大自然科学史6」)から始まっています。学術上の公用語であったラテン語を知らないレンズ商人レーウェンフックの書いた「顕微鏡によってあばかれた自然の秘密」というオランダ語の論文が、当時の権威ある学術雑誌(英国王立協会の科学報告)に発表されたのが最初です。この顕微鏡という新しい道具を、植物学者、動物学者、医学者達が使いこなすようになって初めて微生物(ばい菌など)や細胞のことが分かり、「目に見える生物」の学問が「日に見えないものまでふくむ生物」の学問へと生まれかわったのです。それ以来、学者達の求めに応じて次第に高度な望遠鏡や顕微鏡がつくられるようになり今日に至っています。

 
 

レーダーミュラー著「顕微鏡による心と目の楽しみ」(繊毛虫類)ニュールンベルク、1761年、45頁

 

 ここで凸レンズについて考えてみましょう。平行光線(太陽のように無限に遠くから来る光線)がレンズを通る時、まずレンズに入る所で、つぎにレンズから出る所で屈折し、一点に集まります。この点のことを「焦点」と呼んでいます。レンズの両側のふくらみが同じならば、両側の焦点は、レンズの中心から同じ距離にあります。この距離を焦点距離といい、レンズの性質を示す大切な数値です。さて、適当な光源を持ってきて、まず焦点の外においた場合、作図しながら考えてみましょう。レンズに直角に、レンズの中心を通る直線をレンズの「軸」といいます。
【1】レンズの軸に平行な光線はレンズを通ったあと反対側の焦点を通ります。
【2】レンズの中心を通った光線はそのまままっすぐ進みます。
 この2本の光線の交わるところにスクリーンをおきますと、さかさになった光源の像(実像)ができます(これで充分なのですが、【3】レンズの焦点を通った光線は、レンズを通ったあと軸に平行に進みます。これも定義により当然、前の2本の光線とおなじところで交わります)。
  次に、光源を焦点の内側においた場合です。
【1】レンズの軸に平行な光線はレンズを通ったあと反対側の焦点を通ります。
【2】レンズの中心を通った光線はそのまままっすぐ進みます。
 今度はこの2本の光線はひろがってしまって像(実像)にはなりません。そして見かけ上光源より遠いところ(2本の光線をさかのぼって延長したとき交わる点)から光が来ているように大きく見えます(虚像)。

 
 
像のできかた
 

凹レンズのことは省略しますが、皆さん各自に作図してみてください。このように、色々な見えかたをするレンズを幾つも組み合わせたり、また、目的によっては貼り合わせたりして、高度な機能を持つ顕微鏡や望遠鏡が出来上がるのです。
 今日では顕微鏡は放射線の生物影響や、岩石・鉱物中の放射線の通った跡(飛跡)の研究に無くてはならないものになっています。
(荒谷美智)

光学的原因の火事についてデータを提供して下さいました東京消防庁予防部原因調査課佐藤和宏氏に謝意を表します。

 
   
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