1960年代以降、人類は宇宙へ行くことが出来るようになり、さらには宇宙船の外に出て様々な活動をするようになりました。しかし宇宙では空気がないため、もし人間が宇宙船の外へ放り出されれば、周囲の圧力が低すぎるため血液中の水分が沸騰し、酸素の供給がないため窒息してしまい生存出来ません。したがって、人間が宇宙船の外で行動するためには宇宙服を着用する必要があります。宇宙服はどのようにして着用者の生命維持を行っているのでしようか。

宇宙服の役割
 宇宙服が人間の生命を維持するためには、人間にとって必要な圧力と温度を保ち、酸素を必要なだけ供給しなければなりません。圧力を保つために宇宙服は飛んでくる宇宙塵や気圧差に耐えられる強度にするとともに、宇宙服の内側から外へ物質が出て行かないような仕組にすることが要求されます。このように外部と物質の交換を行わない仕組みを閉鎖系と言います。

宇宙服の中の温度調節
 宇宙服内では温度を調整するため下の写真に示すようにチューブを張り巡らせた液体冷却服を着用し、そこに冷却水を通します。冷却水を通して宇宙服の内部を冷却する理由は、人体の発熱にあります。通常の衣服では人体から発生した熱は衣服内の空気を暖め、暖かい空気とともに対流により外へ逃げていきます。しかし閉鎖系である宇宙服では、人体により暖められた空気は服の外に出られないため、なかなか熱が逃げません。熱が逃げないで宇宙服の内部にたまって行くと宇宙服内部の温度が上がって、着用している人間にとって危険な状態になります。そのためチューブの中を冷却水を通して、宇宙服の中を強制的に冷やしているのです。

宇宙服
液体冷却服

宇宙服の酸素供給方法
 宇宙服は呼吸制御装置により、着用している人間に酸素の供給を行うようになっており、その方法を下の図に示します。人間は呼吸代謝により酸素を取り込み二酸化炭素を排出します。そこで呼吸制御装置では、人間の呼吸で増えた二酸化炭素をカートリッジで吸い取り、減少した分だけ酸素を酸素ボンベから加えて着用している人間に送るようになっています。

閉鎖型作業服の開発
 環境研では科学技術庁からの委託を受け、閉鎖系の中で生態系を維持するための研究が行われています。この様な研究を行うためには、人間が閉鎖系の中へ入って作業しなければならないこともあります。しかし人間が閉鎖系内に入れば、呼吸代謝等により閉鎖系を破壊してしまうことになります。そこで閉鎖系を破壊せずに研究に必要な作業を行うためには、服の外側と内側との間に物質交換のない作業服(閉鎖型作業服)が必要になり、現在その開発が進められています。 この閉鎖型作業服も宇宙服同様に閉鎖系となるため、これまで述べてきた宇宙服と類似した仕組みを持った服となります。
(阿部 康一)

 

閉鎖型作業服開発風景

 
宇宙服の写真はNASAから提供いただきました。また、液体冷却服の写真は航空宇宙技術研究所の木部勢至朗氏のご厚意により提供いただきました。ここに謝意を表します。  
   
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