世界各国で食品の殺菌、殺虫、発芽防止、成熟遅延などの目的で、種々の食品に放射線を照射しています。これはいずれも食品の保存中に、食べられなくなることを防ぐために行われています。放射線に殺菌作用があることは、古くは外国の研究者により1898年と1904年に報告されています。また1916年にはスウェーデンでいちごへの照射が検討されています。1930年にはフランスで食品照射の特許の登録が行われています。このように食品照射の歴史は古いのですが、世界中で実用化が進んだのは、第2次世界大戦後のことです。

●日本の食品照射
 現在日本で照射が許可されている食品は、じゃがいものみです。じゃがいもの照射が始まる前は、5℃で冷蔵していましたが、その費用が大きく、糖分の増加や出荷後の発芽の問題がありました。じゃがいもの収穫期は本州で6月頃、北海道では9〜10月頃ですが、3〜5月頃までの端境期に高値をつけることがありました。そこで、1967年に原子力委員会は、食品照射に関する大規模な研究を開始しました。食品としては、じゃがいも、たまねぎ、米、小麦、ウィンナーソーセージ、水産ねり製品(かまぼこなど)およびみかんの7品目が選ばれました。
 この食品の中で、じゃがいもについての研究結果を紹介しましょう。放射線を照射する目的は、収穫後8ヶ月の室温貯蔵で発芽を防止することと設定されました。男爵、島原および農林1号の3品種が選ばれました。研究の結果 、ガンマ線(X線の仲間の放射線)を70グレイ(後註参照)照射すると、前記の目的を達成することがわかりました。

 
 

じゃがいもの照射室

 

 何分にも食べものですので、照射じゃがいもの安全性につきましては、徹底的に調べました。サルと2種類のネズミに、実際にこの照射じゃがいもを餌として長期間食べさせました。その結果 これらの動物への悪影響は認められませんでした。このネズミに子供を生ませて遺伝的影響も調べましたが、心配するようなことはありませんでした。また照射したじゃがいもが放射能を帯びるようなこともありませんでした。
 照射じゃがいもは食べて安全であるだけではなく、食品としての機能(デンプンやビタミンの含有量 など)も、照射前と同じように保持されていることも明らかになっています。こうした研究結果 が1971年に原子力委員会に報告され、その後厚生省の食品衛生調査会の審議を経て、1972年にじゃがいもの照射が許可されました。1974年から北海道の士幌町農業協同組合が、発芽防止の目的でじゃがいもの照射を開始しました。

照射のための制御室
照射しないじゃがいも(左)と照射したじゃがいも(右)
●世界の食品照射
 世界で最初に食品照射をした国は旧ソ連で、1958年にじゃがいもに照射しています。1959年にはドイツで香辛料の実用照射が始まっています。現在は非常に多くの国が、じゃがいも、たまねぎ、ほうれん草、にんにく、香辛料、冷凍水産物、食鳥肉などの照射を行っています。1980年には国連食料農業機関(FAO)、国際原子力機関(IAEA)と世界保健機構(WHO)は共同で、照射食品に関する安全宣言を発表しています。
(佐藤 文昭)
〔註〕グレイは放射線の量の単位です。例えば胸のX線写真を1枚撮影すると、約0.0003グレイの放射線を浴びます。
 
 
 

写真3枚は北海道河東郡士幌町農業協同組合照射センターより提供いただきました。ここに謝意を表します。

 
   
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