人間や動物はつね日頃ストレスの中で生活しています。ストレスに耐えられなくなるとストレス病と呼ばれる症状が表れます。それほど大きくないストレスでは、体自身がそのストレスを克服し、一定の状態を保とうとします。これを恒常性の維持機能と呼んでいますが、これは体内の3つの機能が相互に働き合うことによって成立しているといわれています。その機能は、自律神経系、内分泌系、免疫系と呼ばれています。自律神経とは脳の視床下部と呼ばれるところから脳下垂体と呼ばれるところを経由して、脊髄に沿って延びる神経の束があり、その束から分かれて体の隅々まで神経が届いているこの系統です。自律神経系には交感神経と副交感神経と呼ばれる2種類の神経があり、交感神経が興奮すると、その神経の先にある器官とか臓器の働きを強め、副交感神経が興奮すると働きを静める作用をします。
  内分泌系とは、甲状腺とか、副腎髄質とか副腎皮質などと呼ばれる各種のホルモンを生産する臓器がありますが、これらにはものを出し入れする導管がなく、生産したホルモンなど直接血液中に分泌するので内分泌系と呼ばれています。免疫系とは体内に存在するものが自分自身のものなのか、外から入って来たものなのかを区別し、外から来たと考えられるものを体外に排除しようとするものです。この免疫の作用を司る細胞は、血液細胞の仲間であるリンパ球だということはよく知られています。リンパ球には骨髄の内だけで成熟するB細胞と胸腺と呼ばれる臓器の内だけで成熟するT細胞と呼ばれる2種類があります。B細胞はT細胞の1部(ヘルパー細胞)の助けを借りて、抗原抗体反応によって外から来たと思われるものを攻撃し排除します。T細胞は自分自身では抗原抗体反応を起こしませんが、T細胞自身の増殖を抑制(抑制T細胞)したり、ウイルスやガンなどを直接攻撃する(キラーT細胞)ものからなっています。

 
 

内分泌腺とホルモン

 
 


自律神経系と臓器


バイオスフェアー2内の海(モデル)

ストレスが脳の視床下部に伝えられるとストレスの種類に応じ自律神経系を興奮させる信号が送り出されます。視床下部は同時に甲状腺、副腎髄質や副腎皮質などを刺激するよう脳下垂体に司令を送ります。脳下垂体は指令に基づいて甲状腺、副腎髄質、副腎皮質などを活性化するための刺激ホルモンを放出します。自律神経系の交感神経が興奮状態になると心臓の働きが強まり、血流が増大します。同時に脳下垂体からの指令に基づき副腎髄質からアドレナリンとかノルアドレナリンと呼ばれるホルモンが放出されます。これにより肝臓から活動エネルギー源となるブドウ糖が血中に放出されます。 アドレナリンは肝臓に働きかけるだけでなく免疫系の働きを強める 作用をします。またストレスによって視床下部から副腎皮質を刺激するような指令が出ると脳下垂体は副腎皮質刺激ホルモンであるACTHと呼ばれるホルモンとか、βエンドルフィンと呼ばれるホルモンを分泌します。ACTHが分泌されるとその作用で副腎皮質はコーチゾルと呼ばれるホルモンを分泌します。コーチゾルは免疫系の働きを抑制するよう働きます。βエンドルフィンは逆に免疫系のT細胞を活性化する働きを持っています。
 どのようなストレスが恒常性をくずすのか、恒常性がくずれ、どのようなストレス病になるのかは今後大きな研究課題です。米国のバイオスフェアー2の閉鎖生活実験では、ストレスが強まり、人間関係が破綻したといわれています。いずれ当研究所でも閉鎖生活実験が行われるでしょうが、このような閉鎖された生活では、どのようなストレスが生じ、そのストレスが人間の体と心理にどのような影響を与えるのかは大きな研究課題となるでしょう。
(新田 慶治)
 
 
 
 
 
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