学校の理科の時間に水の電気分解や電気メッキの実験をしたことがあると思います。水に硫酸などの電解質を少し加えて、そこにバッテリーから電流(直流)を流すと両方の電極からブクブクと泡が出てきます。陰極側では水素ガス、陽極側では酸素ガスが発生します。一定時間電気分解を続けて陰極と陽極のそれぞれに発生した泡の体積を比較してみると2:1になっています。このガスを集めて化合させるとまたもとの水に戻ります。(ただし水素2と酸素1の混合ガスは爆発的に化合するので大変危険です。)このことから水が水素2、酸素1の化合物であることがわかります。これを化学式で表すと2H2O→2H2+O2となります。
 電気分解は工業的にも重要な技術で塩化ナトリウムの水溶液を電気分解して水酸化ナトリウムや塩素ガスを製造することができます。

 長い時間電気分解を続けると、水はどんどん分解してしまい量が減ってきます。このとき、なかなか電気分解されずに最後まで残った水と、電気分解されてガスになってしまった水は全く同じなのか、別なのか疑問に思った科学者がいました。この人は分解されやすい水と分解されにくい水があるのではないかと考え、工業用の電解槽の水を集めて調べてみることにしました。その水の比重を測ると、なんと普通の水よりもかなり重いことが分かりました。さらにそのころ発明されたばかりの質量分析計でくわしく測定してみると、この水の中には普通の水素の2倍の重さを持った水素が含まれていることがはっきりしました。この重い水素を二重水素、あるいは重水素(記号はD)と呼びます。そこで水には2種類あって軽い水素と酸素(元素記号はO)からできている水と、重い水素と酸素からできている水があり、それぞれ軽水(H2O)、重水(D2O)と呼ばれるようになりました。そして軽水は重水よりもわずかに電気分解されやすいと考えた科学者は古い電解槽の水をどんどん電気分解して純粋に近い重水を製造することに成功しました。そしてその重水は密度が1.107、沸点が101.42℃、氷点が3.82℃と測定されました。今皆さんが使っている普通の水1トンあたりこの重水が約160グラム含まれています。

 
 

    ガラスアンプル入りノルウェー産重水

 

 さて重水の性質をもっと詳しく調べるには大量の重水を製造する必要があります。沸点が普通の水よりも1.42℃高いことから、これを利用して実験室で蒸留水をつくるのと同じ蒸留法が試されましたが、電気分解法より効率が悪かったので実用化されませんでした。そこでノルウェーにあったアンモニア工業用の電解工場に設備を追加することで比較的安く重水を製造することに成功しました。
 多くの人がこの重水や重水素の性質を研究した結果、重要な利用方法が発見されました。その一つはフランスのジョリオ・キューリーたちが1939年に提案した天然ウランと重水を組み合わせた原子炉です。そのアイデアはカナダ、イギリスや日本で重水型原子力発電炉として実現されました。

 
 
写真(左) 臨界プラズマ試験装置JT-60     写真(右) むつ小川原港横のITER誘致看板
 

 もう一つの大切な利用方法は、いま六ヶ所村が誘致を進めている熱核融合実験炉(ITER)の燃料として重水素を使うことです。重水素を高温で核融合とよばれる反応をさせると大量のエネルギーが発生します。このエネルギーを取り出して有効利用することは、21世紀のエネルギー問題の解決にとって大きな前進となります。
(桜井 直行)

 
臨界プラズマ試験装置JT-60の写真は、日本原子力研究所那珂研究所から提供を受け、許可を得て掲載したものです。
また、ITER誘致の写真は、六ヶ所村核融合研究施設誘致推進会議の許可を得て掲載したものです。ここに謝意を表します。
 
   
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