放射線は意外と身近なところにあります。宇宙からやってきて、空から降ってくる放射線もその一つで宇宙線とよばれています。
 太陽のような星をはじめとする多くの天体は宇宙線を放っているので、宇宙線を調べると天体の様々な状態がわかります。今世紀に入って、天文学の分野でそれらを調査研究するために様々な装置が開発されました。その一つとして、スパークチェンバー(放電箱)があります。
 スパークチェンバーは大阪大学で発明されました。
 1957年から59年にかけて、渡瀬譲教授のもと、理学部助手の福井崇時氏と大学院博士課程の宮本重徳氏はホドスコープチェンバーの研究開発をすすめていました。ホドスコープチェンバーとは細長いガラス管の中にネオンガスを封入したものを積み重ね、宇宙線の通過直後にガラス管に高電圧を加え、宇宙線が通過したガラス管のみを放電させ、その状態を写真に撮るものです。二人は実験を重ねるうちに気体中の放電現象を利用して立体的に宇宙線の通り道を観測する可能性を見つけました。宇宙線が通ったあとに太い放電の柱と、ガラス管全体に小さな放電の柱が生じる事を見つけたのです。観測を行うのに小さな放電の柱は邪魔です。そこで、宮本氏は高電圧を1億分の1秒程度という短時間のパルスとするという工夫を行い、その障害を除き、宇宙線の通り道だけをはっきりと観測することに成功しました。1958年1月22日のことです。
 二人はさらにネオンガスをつめたガラスの箱を作り、電気を通すガラスの板でこれをはさみ、短時間、高電圧をかけ、宇宙線の通過を観測することに成功しました。これがスパークチェンバーと呼ばれています。
 さて、スパークチェンバーはどのような仕組みで宇宙線を見せているのでしょうか。
 宇宙線の正体は、高いエネルギーを持った粒子で、これが地球の空気の原子と衝突をして、ミューオンと呼ばれる大量の粒子などをシャワーのように地上に降らせます。その粒子が通り抜けた跡では、近くにあった原子はイオン化され、放電が生じやすい状態になります。そこで粒子が飛び込んできた直後に高い電圧をかけることにより、通り抜けた跡に沿って放電させ、光の筋として見ることができるのです。スパークチェンバーは宇宙線観測の他に、現代物理学の実験にも広く使用され、大きな成果を生み出す元となりました。また、現在でもアメリカの衛星に載せられて、宇宙線の一種である宇宙ガンマ線の観測に使われています。  日本の多くの科学館に宇宙線を見せるためのスパークチェンバーが設置されています。また、ロンドンの科学博物館でもスパークチェンバーが動いています。
(坂内 忠明)

スパークチェンバーを見ることができる主な公立の科学館

■札幌市青少年科学館
■仙台市科学館
■横浜こども科学館
■名古屋市科学館
■大阪市立科学館
■神戸市立青少年科学館

宇宙線の通り道が見えるスパークチェンバー    ※スパークチェンバーは科学館で見ることができます。

 

 

本稿の執筆に当たり、大阪市立科学館にご協力を頂きました。
また、スパークチェンバーの写真は大阪市立科学館、札幌市立青少年科学館からそれぞれ提供を受け、許可を得て掲載したものです。ここに謝意を表します。

 
   
topへ戻るインデックス