“テーブルに置いてあったパンやみかんにカビが生えた。”こんな経験は誰にでもあるでしょう。また、それ以外にも夏に数多く発生する食中毒も微生物(大腸菌O-157、サルモネラ菌、ビブリオ属細菌など)が原因となっています。そのため、どちらかといえば“悪者”というイメージが強い微生物ですが、私達の食生活には非常に深い関わりを持っています。  日本古来の食品であるしょうゆ、みそ、納豆や、欧米で食されてきたパン、チーズ、ビールなど、私達の食卓に欠かせない“発酵食品”と呼ばれる食品は、様々な微生物の働きによって作られています。

 
 

コウジカビの胞子の発芽

 
 ごはんを噛んでいると甘くなるのは皆さんご存知でしょう。これは唾液の働きによりデンプンが糖になったためです。これと同じ働きを持つ微生物が日本酒の製造に用いられています。蒸した米にコウジカビを繁植させると、カビの作用によりデンプンが糖に変えられます。この糖を別の微生物である酵母が食べると、アルコールが生産されます。このようにして米から日本酒が造られます。ワインやビールの製造にはコウジカビは使われず、主として酵母だけが使われます。しかし、これらのお酒が出来上がるまでには、酵母の他に乳酸菌といった微生物も関わっているため、これらの菌の割合や能力、種類によって色々な味のお酒が出来るのです。そして酢酸菌によってアルコールが酢酸に変えられると、お酢の出来上がりです。  牛乳の中の糖が乳酸に変えられると、酸味のある発酵乳、つまりヨーグルトが出来ます。これには乳酸菌が働いています。そしてこの発酵乳を凝固させ、一定期間熟成させたものがチーズです。乳酸菌のほかにアオカビが使われるロックホールチーズ(アオカビチーズ)、別のアオカビを使ったカマンベールチーズ(シロカビチーズ)など、用いる微生物の違いによって独特の風味を持った様々なチーズが出来上がります。

酵母の写真
アオカビの写真

食料(飼料)としての微生物
 食用微生物といっても何がなんだかわからないでしょう。しかし私達は常日頃から微生物を食べています。それはキノコです。マツタケ、シイタケ、シメジ、キクラゲなどは植物ではなく、担子菌類と呼ばれる微生物です。キノコのほかに、皆さんがイメージする“微生物”を食料、飼料として利用することが試されています。微生物は動植物に比べて生育速度が速く、しかもタンパク質やビタミンなどの栄養が豊富です。そのため、ブタやウシ、ニワトリなどの家畜のエサに適しており、すでに世界各国で実用化されています。また、酒造りの際に生じた酵母や、藻類であるクロレラを固めた錠剤が健康食品として販売されています。
(曽田 匡洋)
 
 
酵母、コウジカビ、アオカビの写真は近畿大学農学部の坂井拓夫教授の御好意により御提供いただいたものです。
ここに謝意を表します。
 
   
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