みなさんは藻類という言葉をご存知でしょうか。私達は普通 、藻類といえば海に生えている海藻のことをイメージしますが、実は海藻(大型藻類と呼ばれています)以外の大部分の藻類はとても小さく、顕微鏡を使わないと見えないような植物プランクトンがほとんどなのです。もちろん、海藻も藻類の仲間です。でも、藻類の生活の場は海の中だけに限られず、川や沼の水中、土の中、陸上の石や樹木の表面 、動物の体内など、非常に広い範囲にわたっています。また、その種類も多く、生活様式もさまざまで複雑になっています。藻類は、基本的にはアサガオやヒマワリのような陸上植物と同じ植物類ですが、種(たね)を形成する等のことはしないで繁殖します。ではここで、二つの種類の藻類を挙げてみて、その生活様式(生活史といいます)を調べて陸上植物とどう違うのかを比較してみましょう。

海藻と植物プランクトンの生活史
 藻類にはいろいろな種類があると述べましたが、ここでは海藻と植物プランクトンを一種類ずつ挙げて、その生活史を紹介したいと思います。写 真1を見てください。これは屋内に設置された海水魚飼育用の水槽で、中には海藻が入れてあります。水槽の底にたまっている緑色の葉っぱのようなものが緑色大型藻類のアナアオサです。そこから上の方向にまっすぐに伸びて、色が茶色いものが褐色大型藻ホンダワラ類のアカモクです。アナアオサは、海の水深約1〜2メートルの所に生えているので、みなさんは海に入らなくても観察することが出来ます。アカモクは水深約3〜5メートル位 の所に生えていますから、水中メガネを使って素潜りでもしなければ見ることが出来ません。でも年に数回、海岸に流され、打ち上げられているものを手にとって観察することが出来ます。

写真1 水槽の中の海藻類
図1 アナアオサの生活史(単為発生)
 では、アナアオサの生活史を例にとって見ていきましょう。図1にアナアオサの生活史を示します。実はアナアオサには雄と雌が存在するのですが、ここでは雄と雌のそれぞれが自分の力で繁殖(単為発生)する様子を紹介します。アナアオサの雄と雌のそれぞれは成熟すると遊走細胞(生殖細胞)を放出します。これは非常に小さくて2本の鞭毛(べんもう)を持ち、それを使って水中を泳ぎまわります。そして、岩などの表面 に着生(くっつくこと)してから発芽および生長してアナアオサになります。水中を泳いで自分の生活場所をさぐるというあたりが陸上植物とは違いますよね。
 
写真2 ナンノクロロプシス(緑色)の培養
図2 ナンノクロロプシスの生活史
 

 写真2は、植物プランクトンのナンノクロロプシス(真眼点藻:緑色に見えます)を人工的に培養している様子です。これは1個の細胞からできている植物で、通 常は海の中のあちこちに浮遊して生活しています。 このナンノクロロプシスは海産クロレラと呼ばれることが多いのですが、研究が進んで、一般 に健康食品などで利用される淡水産のクロレラとは無関係であることが知られるようになりました。ですが一方では、この植物プランクトンは魚の養殖産業の場でよく利用されています。図2にナンノクロロプシスの生活史を示します。この種類は今のところ、雌雄の存在は確認されていません。自らが自生胞子を放出して増殖する無性生殖を行います。簡単にいうと、分裂のようなことをしてどんどん増えていくのです。
 海藻のアナアオサと植物プランクトンのナンノクロロプシスを紹介しましたが、藻類には他にもたくさんの種類があり、いろいろな分野での専門家が研究を行っています。
(中野渡 嗣業)

 
   
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