生物が自身の体の内外に鉱物(無機化合物)を作り出すことを生体鉱物形成作用(biomineralization)と呼びます。難しそうな言葉ですが、この作用は特殊なことではありません。例えば、人の歯や骨もリン酸カルシウム{Ca10(PO46}で出来ています。これも一種のバイオミネラリゼーションによって作り出された物といえます。それだけでなく、他の多くの植物や動物でもバイオミネラリゼーションを行っています。 特に、海洋に生息する生物は太古の昔から主に炭酸カルシウム(CaCO3)を利用して多種多様なバイオミネラリゼーションを行ってきました。以下にそれらの生物をいくつか紹介します。

(1)有孔虫
 写真1は沖縄のおみやげとして有名な「星の砂」です。実はこれもバイオミネラリゼーションの産物なのです。「星の砂」を作り出した生物は、学名をCalcarinaspengleriという有孔虫の仲間でアメーバと同じ原生動物に属します。写 真の有孔虫はサンゴ礁の砂の中に多く見られ、星を形作っている突起は砂のなかに体を固定するために用いられていると考えられています。また、大きさや形に色々あるのは、成長した環境によるものだと言われています。

写真1 「星の砂」
写真2 介形虫の殻

(2)介形虫
 写真2は一見ピーナッツのようにも見えますが、介形虫という生物の殻です。この生物はエビやカニと同じ甲殻類の仲間で、主に沿岸の岩場に多数生息しています。ただし、写 真の種(Bicornucythere bisanensis)はエビやカニの仲間といっても1mmにも満たない大きさなので、見つけだすことは難しいかもしれません。写 真2の介形虫とは異なる種ですが、写真3(Xestoleberis hauaii)は生きている時のもので、カニのような足が殻の隙間に見えています。介形虫は貝形虫という文字を使うことがあるように、二枚貝のように2枚の殻で身を覆っています。ほとんどが1mm以下の大きさですが、中には殻の大きさが数cm程度で海水中を自由に泳ぎ回る仲間もいます。

写真3 生きている時の介形虫
写真4 枝状サンゴの骨格

(3)サンゴ
 サンゴの骨格もバイオミネラリゼーションによってできたものの一つです。写真4は枝状サンゴの骨格です。枝の一つ一つのさらに尖った部位がサンゴ一個体(ポリプ)分です。サンゴは軟体部のポリプを分裂・出芽し、骨格を成長させていくことで、サンゴ礁を作り出していきます。それだけでなく、ある時期の夜間に一斉に卵と精子を海水中に放出して受精を行い、受精卵はそのまま波間を漂いうまく別のサンゴ礁にたどり着くとそこに着生して成長します。こうして、大きなサンゴ礁を作り上げていきます。

 その他にも、二枚貝や巻き貝の殻もバイオミネラリゼーションによって作り出されたものです。また、カニの甲羅はカルシウムとキチン質によって作り出されたもので、これもバイオミネラリゼーションの一種です。

 有孔虫や介形虫は恐竜が出現するよりもっと昔から地球上に生息し、「星の砂」のように砂の中に生息するものや、海水中を漂う生き方をするもの、あるいは水深数千mのところに生息するものなど様々な環境に進出していき、世界中の海洋に分布していきました。そして、それぞれの生息環境に応じた様々な形の殻を作り出してきました。その後、進化・絶滅に伴ってバイオミネラリゼーションによって作り出された様々な殻(生体鉱物)が化石として産出することで、介形虫達が生きていた当時の地球環境に関する貴重な情報を伝えてくれています。
(石川 義朗)

 
   
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