みなさんは、部屋の中がゴミでちらかったらどうしますか?きっと掃除機か、ほうきとちりとりを持ってきてゴミをかたづけると思います。それでは、体の中に入ったゴミは、いったいどうなるのでしょうか。じつは体にもゴミをかたづける機能がきちんと備わっているのです。
今から100年以上も前にメチニコフという科学者が、ヒトデの幼虫にバラのとげを刺して顕微鏡(けんびきょう)で観察したところ、アメーバのように動く細胞が、とげのまわりにたくさん集まってくることに気がつきました。つまり、ヒトデにとってバラのとげのようなゴミ(異物ともいいます)が体の中に入ってくると、それを攻撃するような細胞がいることを発見したのです。その後の研究でこのような細胞が、ヒトデだけではなく人間も含めた動物の体の中にもひろくいることがわかりました。この細胞の大きさは、だいたい直径が十数ミクロン(1ミクロンは千分の1ミリ)ですが、自分より小さなほこりのようなゴミの場合は、餅(もち)であんこをくるむように、細胞の中に取り込んでしまいます。それでこのような細胞をマクロファージ、日本語では大食(たいしょく)細胞と呼ぶことにしました。
マクロファージは、ほぼ全身にいます。空気中にはチリやほこりがたくさん浮いており、私たちはたえず呼吸をすることにより、そのチリやほこりを肺の中に吸い込んでいます。ですからマクロファージは、特に肺の中で活発に働いています。また肝臓と脾臓にも多くおり、血液、骨髄、皮ふ、脳、リンパ節、腸、結合組織、体腔(胸腔と腹腔)などにもいます。環境研ミニ百科台41号「骨の話」にでてくる破骨細胞は、骨にいるマクロファージの仲間です。骨の余分な部分を溶かして吸収する働きをしており、このようにマクロファージは、定着している組織や器官に応じて異なった性質と働きを持っています。
※正常な実験動物(ラット)の肺を洗浄したとき、洗浄液の中に含まれてくる肺胞(はいほう)マクロファージの電子顕微鏡写真。細胞の表面が複雑に入り組んでいますが、これはたくさんの壁(ひだ、矢印参照)があるためにこのように見えます。この壁で異物をくるみこんで細胞の中に取り入れます。(拡大倍率約3000倍)
N=細胞核
マクロファージの働きはいろいろあります。まず、先に述べたように異物を細胞内に取り込んで、消化酵素で分解、処理します。異物はほこりのような無機物だけではなく、細菌のような病原体でも取り込んで処理する事ができます。この場合、その病原体による病気に再びかかりにくくするような働き(これを免疫反応とよびます)をおこすのを助けます。また、傷口で血液を固まらせる成分、血液細胞を造るはたらきを助ける成分、炎症を起こす成分、細胞の増殖を促進あるいは抑制する成分、病原体を殺す成分などいろいろな成分をつくりだしてマクロファージの外に分泌(ぶんぴつ)しています。さらに、血液中のコレステロールを取り込むことにより動脈硬化に関与したり、がん細胞を殺す作用も持っており、病気の発生や予防にも大切な役割を果たしています。
▲写真2
▲写真3
(写真2)アスベスト(石綿)を吸ったラットの肺の切片標本の光学顕微鏡写真。肺胞マクロファージがアスベストを異物として取り込み、丸く、大きくふくらんでいるのがわかります(矢印参照)。
(拡大倍率約300倍)
(写真3)写真2の標本を電子顕微鏡でさらに拡大した写真。濃い黒色で周りが角ばっているのがアスベストの粒子で(色矢印参照)、細胞の中にぎっしりつまっています。このように、たくさんの異物を取り込むことができるので、大食細胞(マクロファージ)と名付けられました。
(拡大倍率約4250倍)
N=細胞核
このようにマクロファージは、体の中に入った異物をかたづけるといった、たんなる掃除屋さんとしての働きだけではなく、全身を正常な状態に保つために重要な働きをしている細胞なのです。
※写真は、小木曽洋一博士(科学技術庁放射線医学総合研究所、内部被ばく・防護研究部)の御厚意により提供いただき、掲載したものです。ここに謝意を表します。