皆さんは植物細胞を顕微鏡や写真、図などでご覧になったことがあると思います。植物細胞は動物にはない細胞壁で覆われています。骨格を持たない植物は一つ一つの細胞に細胞壁を持つことにより、体を支えることが出来ます。また、細胞壁は病原菌やウイルスの進入を抑える役割も果 たしています。
 植物細胞からこの細胞壁を取り除き、動物細胞のように細胞膜に包まれた原形質の状態にすることが出来ます。この状態の細胞をプロトプラスト(原形質体)と言います。“プロト”とは“最初の、原始の”、“プラスト”とは“形成されたもの”と言う意味で、プロトプラストはこれらを合成した言葉で“生命活動の本体”と言う意味です。

〈プロトプラスト単離法の歴史〉
 プロトプラストの単離は、20世紀の前半まで植物細胞を高農度のショ糖液に浸し、原形質分離を起し細胞壁と原形質が離れたところをメスで細胞を刻んで取り出す方法を用いていました。
 そして20世紀半ばになると、植物の葉を食べて消化するカタツムリに注目して、カタツムリの消化酵素を利用したプロトプラストの単離方法が開発されました。そのため、当時はカタツムリが高値で取引されたそうです。しかし、この方法はカタツムリからこの酵素を取り出すことが簡単ではなかったため、木材を腐食させる菌が持つ、細胞壁を溶かす酵素(細胞壁消化酵素)を利用する方法が開発されてからは、ほとんど使われなくなりました。菌から酵素を取り出すには、発酵や酵素化学の優れた技術(味噌や醤油、日本酒等を製造する技術)が生かされました。
 現在は、菌から抽出された細胞壁消化酵素で処理する方法が主に利用されています。細胞壁は主にセルロ−ス、ヘミセルロース、ペクチン質等の多糖類でできており、それら多糖類ごとに働く消化酵素は異なっています。そのため、いろいろな種類の細胞壁消化酵素を組み合わせて処理することにより、大量 のプロトプラストを健全に単離することが出来るようになりました。

 
 

シロイヌナマズの葉から単離したプロトプラスト(緑とピンク)

 

〈プロトプラストの性質〉
 単離したプロトプラストは主に、元の細胞がどのような形であっても球状になります。そして、細胞壁がある状態の細胞では見られない現象を示します。
 細胞壁があるために細胞内に入れなかった高分子や粒子・ウイルスなどを取込んだり、近くにあるプロトプラスト同士が合体して、1つの細胞になったりします。
 また、単離したプロトプラストに適当な条件を与えてやると、再び細胞壁を作らせることが出来ます。その細胞は分裂を行い、細胞の塊となります。そして現在ではその細胞の塊から植物体を再生させることが出来るようになりました。

 
 

原形質分離

生きている細胞の膜は水は通すが、他の物資は通さない。細胞内より農度が高いショ糖液に浸すと細胞内の浸透圧と細胞外の浸透圧が等しくなるように細胞中の水が外に出ていく。このことにより細胞中の水が奪われ、細胞膜が細胞壁から離れる現象。

 

 この現象を利用して様々な植物の育種(品種改良)が実際に行われています。
(工藤 真寿美)

 
   
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