皆さんが住んでいる街には何人ぐらいの人が住んでいますか?
 こんな質問を受けたらどうやって調べれば良いのでしょう。お隣の家から何人いるか数えていきますか?実は市町村の人□は市役所や役場に行けば調べることができます。人の場合は生まれたり亡くなったりした時にちゃんと戸籍をつけて人数を調べているからです。
 海の中にも、街や村のように魚が集まって住んでいる場所があります。その一つが海藻(草)の生えている場所、つまり“モ場”です。では、このモ場にどれくらい魚が住んでいるのかどうやって調べればわかると思いますか?残念なことに魚には戸籍がないので、簡単に数を調べることは出来ません。いったいどのような方法で魚を数えるのでしょうか?

ライントランゼクト法
 もっとも確実な方法として、スキューバ潜水をしながら直接目で見て数える方法があります。しかし、なにげなく見ていたのでは、魚がどれだけいたのかすぐにわからなくなってしまいます。そこで、スキューバ潜水による調査ではライントランゼクト法という調査方法(図1)を行います。
水がきれいだと魚の観察ができます。
水が濁ってくると調査ができなくなってしまいます。
図1 ライントランゼクト法による調査
 ライントランゼクト法では、調査地点に一定の幅で廊下のようにロープを張っておきます。たいていは真中に一本太いロープを張り、その両側に別 なロープを50センチから1メートルくらい離して張ります。こうしておくと、ロープの内側と外側の区別がしやすいのです。このようにしてロープを張った廊下のような区画(トランゼクト)の中に何尾の魚がいるか泳ぎながら目で見て数えていくわけです。たとえば1メートル間隔のロープに沿って10メートル泳いだときに見つけた魚が15尾だったとしたら、このときの魚の密度は15〔尾〕÷(1×10)〔m2(面積)〕で、1m2あたり1.5尾の魚がいることになります。
 ライントランゼクト法は水深の浅いモ場の調査には非常に有効な方法ですが、いつでも出来る方法ではありません。いちばんの問題は水の濁りです。濁りの原因は高波による砂の巻き上げ、雨で濁った川の水の流入といった天候によるものや、プランクトンの大量発生のような生物によるものなどいろいろあります。いずれにしろ、いちど濁ってしまうとしばらく調査が出来なくなってしまいます。

ドロップネット
 濁った場所では目視調査ができません。そこで網を使って魚を捕まえて数えることが必要になります。この場合にも、どれだけの広さの中に何尾の魚がいたのかをおさえておくことが重要です。そこでドロップネットと呼ばれる一定の広さを囲い込む網が考案されています。
 ドロップネットは干潟や湿地のような浅い水域での魚類調査のために作られたものです。最初は、干潟に打ち込んだ杭の上に網を取り付けておき、潮が満ちた時に網を落として魚を閉じ込めるといったものでした。その後、いろいろな場所へ移動して調査が出来るようなポータブルドロップネット(図2)へ改良されました。

ポータブルドロップネット
ドロップネットが落下する様子
図2 ドロップネット
 写真のドロップネットは、およそ6.5〜7.Om2の範囲にいる魚を採集することが出来ます。この広さは新聞紙を広げて8枚並べた広さと同じです。このドロップネットを使って北海道の厚岸湖で行われた調査では、ドロップネット一回あたりカレイの仲間のトウガレイが1.2尾、小型のハゼであるヘビハゼが13.8尾採れました。また、魚以外にもホッカイエビやミツクリエビがネット一回あたり8.8匹採れました。厚岸湖のアマモ場では、新聞を広げたぐらいの広さの中にヘビハゼやエビ類が少なくともひとつずつはいたことになります。
 今回は、モ場に住む魚の数をかぞえる方法を紹介しました。モ場に住んでいる魚は、あまり活発に泳ぎまわらない魚が多いのでこのような方法で調べています。しかし、こうして調査を行っても、1度だけでは海の中でおきているほんの一部分のことしかわかりません。モ場に住んでいる魚たちのことをよく理解するためには、時間の経過とともに魚の数や種類がどう変わっていくか観察し続けること(モニタリング)、その変化が水温や光などの環境、あるいは魚以外の生物とどうかかわっているか明らかにすること(モデリング)、というふたつの“モ”を意識しながら研究を進めていくことが重要です。
(鈴木 健吾)
 
   
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