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1960年代に採取された大気降下物中の精密プルトニウム同位体比測定結果(論文掲載)

 Scientific reports (2019)に論文掲載     環境影響研究部 大塚良仁研究員

 プルトニウムは極めて微量ですが、環境中に広く存在している放射性物質であり、そのほとんどは1960年代に行われた大気圏内核実験により放出されたものです。環境中には、238から242の質量数を持つ5種類のプルトニウム同位体が存在しており、それらの同位体の原子数比(同位体比)はプルトニウムの起源によって大きく異なることが知られています。

 大気圏内核実験に由来するPuの場合、爆発規模が大きいほど重い同位体ができやすいのですが、土壌に蓄積されたPuをまとめて分析すると、ほぼ一定の値が得られます。一方、原子炉内の燃料中のプルトニウムは核実験由来のプルトニウムに比べてより質量数の大きい同位体が増えていくことから、この同位体比の差を利用すると原子炉起源と核実験起源のものに分けることができます。チェルノブイリ原発や福島第一原発の周辺土壌等で見つかったプルトニウムの由来を調べるために、この同位体比が使われています。

 このように、核実験起源Puをまとめた場合の同位体構成は判明していますが、長い核実験の歴史上、大気から降下してきたPuの同位体比がどのような変遷をたどってきたのかと言うことについては不明な点があり、特にプルトニウムの降下量が多かった1960年代の詳細な同位体比の変遷は知られていませんでした。

 本論文は、1963年3月から1966年5月に東京と秋田で月別に採取された大気降下物中のプルトニウムの240Pu/239Puと242Pu/239Pu同位体比の精密測定を行った結果を報告したものです。1960年代に月単位という短い間隔で採取されたサンプルを対象としたこのような測定は、本研究が初めてとなります。両同位体比とも、1963年初頭に急激に上昇し、その後はゆっくりと減少しました。1963年は部分的核実験禁止条約が発効した年であり、その前年までは米ソの駆け込み大気中核実験が大規模に行われていました。大規模な爆発の場合には、プルトニウムが成層圏に達することが知られており、成層圏から対流圏へのプルトニウムの降下によって同位体比が変化していると考えられますが、詳細なメカニズムは今後の研究課題です。

 本研究で得られた時間分解能の高いプルトニウム同位体比は、核実験起源プルトニウムを利用した年代測定などに広く利用可能な情報となります。


掲載論文

Yoshihito Ohtsuka, Michio Aoyama, Yuichi Takaku, Yasuhito Igarashi, Nichinari Hattori, Katsumi Hirose, Shun-ichi hisamatsu. 240Pu/239Pu and 242Pu/239Pu atom ratios of Japanese monthly atmospheric deposition samples during 1963-1966.
Scientific Reports. (2019) 9:8105. DOI: 10.1038/s41598-019-44352-7

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