研究報告(平成16年度)

平成16年度環境科学技術研究所年報から、「第Ⅰ部　概況」を転記しました。

第Ⅰ部　概況

第1章　事業の概要

平成16年度においては、青森県から、放射性物質等の環境影響に関する調査研究として12件、国から、原子力と環境のかかわりに関する知識の普及活動として１件を受託し、計画どおりに実施した。その調査研究活動の一環として、居住実験と物質循環技術に関する国際検討委員会を、六ヶ所村の文化交流プラザ「スワニー」において開催した。

放射線測定実演、理科教室、出前講演会及び青森県民を対象とした講座の開催、印刷物の発行、ビデオ・ホームページ等により、放射線、原子力と環境のかかわり等に関する知識の普及を行った。

また、10月から先端分子生物科学研究センター第１研究棟の運用を開始した。

第2章　事業の内容

Ｉ．放射性物質等の環境影響に関する調査研究

以下、受託調査事業と知識の普及事業を中心に概況を述べる。

1．放射性物質等の環境影響に関する調査研究

1.1 放射性物質等の分布に関する調査研究

再処理施設の本格稼動に先立ち、放出が予測される放射性核種のバックグラウンドレベルとその変動に関する調査を実施した。環境γ線線量率の地域的分布特性に関する調査として、東通村の環境γ線線量率測定を行い、村内の詳細な線量率分布を明らかにした。また、六ヶ所村の牧草地土壌を対象にPu濃度の測定を行い、地点間及び土壌深度による変動が大きいことを明らかにした。大気への放出が予測される核種の六ヶ所村内におけるバックグラウンド調査として、降水中の³H、大気、植物、土壌中の¹⁴C、土壌及び植物中の¹²⁹Iを測定した。更に、六ヶ所村沿岸海域等で採取したコンブ中の⁹⁹Tcの測定を行い、これまでに国内で報告されている海藻中濃度とほぼ同じレベルであることを認めた。

1.2 放射性物質等の環境移行に関する調査研究

(1) 気圏における動態調査　―大気からの物質の除去機構―

ヤマセ霧、降雨及び降雪による大気からの物質の除去過程（ウォッシュアウト）を明らかにすることを目的とする。霧による大気中エアロゾル除去に関する野外調査から、霧水中に含まれるNa、硫酸濃度が降水中の数倍に達することを認め、大型人工気象室を用いて、霧による固体エアロゾルの取り込み効率と霧粒径及び霧水量との関係を明らかにするための実験条件について検討した。また、降下物及び大気浮遊粒子中の天然放射性核種（⁷Be及び²¹⁰Pb）を六ヶ所村、鯵ヶ沢町及び八甲田山の3地点において測定したが、季節変動に大きな違いは認められなかった。

(2) 陸圏における動態調査

(2.1) 土壌における可給態元素抽出方法の検討

放射性核種の土壌・植物間移行評価の精度向上を目的として、葉菜類（コマツナ）を用い、SrやLaについて従来より精度の高い可給態移行係数を求める方法を確立した。この方法を青森県内の土壌と作物に応用し、県内土壌の可給態移行係数マップを作成した。

(2.2) 植物中での微量元素の挙動に及ぼす気象要因の影響

ヤマセ等の気象要因が植物の元素代謝に与える影響を明らかにするとともに、その機構について研究することを目的としている。イネの元素移行係数に及ぼす光の影響を調査した結果、弱光条件下ではSrの玄米への移行は3割程度減少した。植物の元素吸収機構を解明するために、シロイヌナズナのSr耐性株を1系統単離、Cs耐性変異株については1つの遺伝子座の変異で16系統の変異株を得た。植物の K 輸送体である AtHKT1 及び AKT2 について、電気生理学的手法により解析をした結果、Csは両者を透過しないことが明らかとなった。

(3) 水圏における動態調査　―尾駮沼の生態系を考慮した放射性核種等移行モデル構築―

汽水湖である尾駮沼への流入が予測される放射性核種の挙動を予測するため、湖内の生態系を考慮した予測モデルを作成するとともに、尾駮沼及び沿岸海域のバックグラウンド放射能データを得ることを目的としている。これまで開発した流動モデル、粒子追跡モデル及び低次生態系モデルを統合し、生態系を考慮した放射性核種等移行・分配・蓄積モデルの構築を行った。モデルで使用される一次生産速度（量）、懸濁粒子の堆積速度について実地データを得た。尾駮沼と沿岸海域の生態系における³H、¹⁴C、¹²⁹I等の濃度と六ヶ所村から八戸に至る水深200 m以浅の海域（漁業水域）を対象に、海底堆積物中の³H、¹⁴C、¹²⁹I等の濃度を調査した。

(4) 六ヶ所村の地域特性を考慮した線量評価モデルの構築

施設からの放出が予測される放射性核種による中長期の線量評価モデルを構築することを目的とし、六ヶ所村の地域特性を織り込んだ、大気拡散モデルと陸域移行モデルを結合した環境移行・線量評価モデルを作成する。平成16年度には、陸域移行モデルのうち、地表面に沈着した放射性核種の土壌中における挙動及び外部被ばく線量評価に関する部分を作成した。大気から地表への湿性沈着に関しては、降水の密度と地域分布の精度を上げるためレーダーアメダスデータを取り込めるようにシステムを拡張した。更に、環境移行モデルに必要な畜産物に関するパラメータ値を整備するとともに既存の自然･社会環境情報データベースシステムへの機能追加を行った。

1.3 放射性物質の形態別分析手法の開発研究

環境中に存在する極微量の放射性物質等の形態別分析手法を開発し、実試料への適用性を検討することを目的としている。遷移金属(Co、Zn等)についてサイズ排除型クロマトグラフの最適条件を見出し、湖水試料に適用した。ヨウ素の標準試料について、サイズ排除型クロマトグラフICP質量分析器を用いた分析法及びキャピラリー電気泳動ICP質量分析器を用いた価数分離法を確立し、淡水試料への適用性を確認した。

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研究成果