研究報告(平成28年度)

はじめに

大型再処理施設放射能影響調査事業の一環である環境影響及び生物影響に関する調査研究を、当研究所の主要事業として、これまで青森県から受託しており、平成28年度においても同事業を受託し、これを遂行した。それに加えて、国が進める福島第一原子力発電所事故に伴う放射性物質の長期的影響把握手法の確立のための放射能測定を日本原子力研究開発機構から受託し、環境省からは極低線量率放射線連続被ばくマウスを用いた健康影響解析の研究を受託した。また、それらの調査研究に係る情報を青森県民に提供するための情報発信活動等を行った。

さらに、国際放射線防護委員会第5専門委員会との共催により環境防護に関する公開シンポジウムを六ケ所村で開催し、加えて、研究領域の拡大や新たな調査研究の展開を目指し、科学研究費助成事業の調査研究及び研究所独自の自主研究を行った。その他、学生に対する放射線の実習・講義等により、人材育成を支援した。

受託事業の概況

青森県からの受託調査研究事業、その他の受託調査研究事業及び自主研究について報告する。

1. 排出放射性物質の環境影響に関する調査研究

1.1 排出放射能の環境移行に関する調査研究

1.1.1 総合モデルの高度化と運用体制の構築

平成27年度までに総合的環境移行・線量評価モデル(以下、「総合モデル」)を開発してきたが、更なる高度化を行うため、大気中放射性核種濃度等の実測値をデータ同化する機能、被ばく線量の確率論的評価機能及びこれまでの調査で得られた知見をモデルに導入する。また、気象データをオンラインで入手し、使用する運用体制を整えるとともに、水圏関連サブモデルへの機能追加を行う。

平成28年度は、風向風速データ同化に用いる手法を選定するとともに、大気中放射性核種濃度実測値データ同化機能の基本設計を行った。さらに、オンラインで配信されている気象データを受信・管理する運用体制を構築した。加えて、水圏関連サブモデルに、水産物摂取による内部被ばく線量を評価する機能を追加した。

報告詳細
1.1.1 総合モデルの高度化と運用体制の構築(558KB)

1.1.2 大型再処理施設周辺等データの取得とモデル検証

大型再処理施設周辺で採取した大気、降水をはじめとして陸域、湖沼及び沿岸海域の環境試料及び日常食中の放射性核種濃度(3H、14C、129I等)を測定し、得られたデータを用いてこれまで構築した総合モデルを検証する。

平成28年度は、ほとんどの試料中の排出放射性核種濃度がバックグラウンドレベルであったが、土壌や湖底堆積物等に大型再処理施設のアクティブ試験によって排出された129Iが残留し、その蓄積量に大きな変化は認められなかった。また、福島県浪江町における大気中137Csの再浮遊率が約1.2年の半減期で減少していること、及び福島県飯舘村の小河川における137Csの流出量が、降下沈着後の早期には急減し、その後に漸減していることを明らかにした。

報告詳細
1.1.2 総合的環境移行・線量評価モデルの検証(363KB)

1.2 青森県産物への放射性物質移行に関する調査研究

大型再処理施設の稼働に伴い、14C、放射性ヨウ素等が環境中に排出され、また、異常放出時にはこれらに加えて放射性セシウム及び放射性ストロンチウムの放出が考えられる。そこで、果樹(リンゴ)及び海産物(ヒラメ)等の経済的に重要な青森県産物を対象に、大気放出される14C、放射性ヨウ素及び放射性セシウムの果樹への移行並びに海洋放出される放射性ストロンチウム及び放射性ヨウ素の海産物への移行に関する実験を行い、それぞれの移行・蓄積サブモデルを構築する。このため、以下の調査研究を行った。

1.2.1 果樹における放射性炭素移行調査

本調査では、リンゴ幼木を対象に、14Cの大気からリンゴの果実への移行・蓄積モデルを開発するとともに、屋外栽培個体のばく露実験等によるモデル検証を行う。

平成28年度は、晩生品種「ふじ」及び早生品種「つがる」を対象に室内での栽培条件の検討を行い、気温等の栽培条件を決定するとともに、果実が得られやすかった「ふじ」を平成29年度から開始する本実験の対象品種として選定した。また、屋外の「ふじ」及び「つがる」成木を用いて、着果枝への予備的な果実生育段階別13CO2ばく露を実施した結果、光合成で固定された13Cの短期的な果実への移行は、果実発達期に増加し、「ふじ」では成熟期に減少するが「つがる」では減少が見られないことを明らかにした。

報告詳細
1.2.1 果樹における放射性炭素移行調査(321KB)

1.2.2 果樹における放射性ヨウ素等移行調査

本調査では、姫リンゴ幼木を対象に、放射性ヨウ素及び放射性セシウムの葉面、樹皮表面及び果実表面から果実への移行・蓄積モデルを、それぞれの安定元素を用いた実験により構築する。

平成28年度は、目的元素のリンゴ樹への部位別負荷方法及び植物試料の前処理方法について検討を行うとともに、姫リンゴのアルプスおとめ幼木の室内栽培条件を検討し、それぞれの手法を確立した。

報告詳細
1.2.2果樹における放射性ヨウ素等移行調査(268KB)

1.2.3 海産物への放射性ストロンチウム・ヨウ素移行調査

本調査では、ヒラメを対象に、放射性ストロンチウム及び放射性ヨウ素について海水からの直接移行及び食物連鎖を介した移行を含む移行・蓄積モデルを構築する。

平成28年度は、ストロンチウムの安定同位体である86Srを添加した海水中でヒラメを飼育するばく露実験を開始し、筋肉と骨中の86Sr濃度を経時的に測定した。得られた結果を基に、海水からヒラメへの暫定的な86Sr短期移行モデルを作製した。さらに、平成30年度から行うヒラメから海水へのストロンチウム排泄を調べる実験に用いる個体について86Srによる標識を開始した。

報告詳細
1.2.3 海産物への放射性ストロンチウムの移行調査(302KB)

         <<前ページ  1  2  3  4  次ページ>> 受託事業の概況(2)