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2. 低線量放射線の生物影響に関する調査研究

低線量率・低線量放射線のヒトへの影響を推定するため、異なる線量率と集積線量の放射線をマウスに照射して以下の研究を実施した。

2.1 低線量放射線生物影響実験調査(継世代影響・線量率効果解析)

高線量率(700〜800 mGy/分)及び低線量率(20 mGy/日)ガンマ線を同じ集積線量になるまでオスマウスに照射し、照射終了後に非照射メスマウスと交配して得られる仔マウスとオス親マウスを終生飼育し、病理学的に死因やがんの発生率等を調べ、線量率の違いが継世代影響に異なる影響を及ぼすかどうかを調査する。さらに尾組織から抽出・精製したDNAを用いてゲノムの変化を調べる。

平成28年度は平成26 年度に決定した至適放射線照射線量及び実験手法を基に、オス親マウスへの照射・交配・終生飼育、死亡マウスの寿命・死因・がん発生解析及び遺伝子変異解析を進めた。これは平成27年度に引き続いて実施したものである。

報告詳細
2.1.1 低及び高線量率ガンマ線照射オス親マウスの子孫への影響 -寿命、死因、がん発生検索- (275KB)
2.1.2 低及び高線量率ガンマ線照射オス親マウスの子孫への影響 -生殖細胞突然変異の検索- (248KB)

2.2 母体内における低線量率放射線被ばく影響実験調査

母体内、すなわち発生初期から胎児期にかけての時期における低線量率放射線長期被ばくの健康影響を評価するため、受精卵の生死、胎仔の発生異常、死亡胎仔数、外表奇形などの出生前までに現れる短期的影響を調べる。また、出生後にみられる出産仔数、体重、外表奇形などに加え、長期飼育後に評価できる寿命、死因、発がん率などに関する長期的影響を明らかにする。

平成28年度は、平成27年度に得られたデータを基に決定した実験条件を用いて短期影響解析を実施した。受精から胎仔期までの全期間、もしくは一部の期間に照射し、胎仔期に、あるいは生後10週齢までに発現する影響についてのデータを蓄積した結果、生殖腺の放射線感受性の高いことが判明した。また、長期影響解析では受精から出生直前までの全期間照射し、次年度以降の解析のために終生飼育を開始した。

報告詳細
2.2 母体内における低線量率放射線被ばく影響実験調査(257KB)

2.3 低線量率放射線に対する生理応答影響実験調査

生物個体が備えている生理学的恒常性維持のための各種調節システムが低線量率放射線照射に対してどのような反応を示すか、また低線量率放射線がこのようなシステムへの関与を通して生物個体に最終的に及ぼす影響(寿命短縮やがん発生)のプロセスの実体を明らかにするため、これまでの調査により放射線の影響が顕著であることが明らかになっている造血系、免疫系、内分泌系の3システムに関し以下の調査研究を行った。

2.3.1 造血系解析

低線量率放射線の造血幹細胞への影響が、造血幹細胞が照射された直接的な影響であるのか、あるいは周辺の細胞や液性因子を介した間接的な影響であるのかを明らかにする。

平成28年度は、中線量率(400 mGy/日)、高線量率(700〜800 mGy/分)γ線を照射したマウスでの造血幹細胞の周辺環境の解析を行った。また、平成27年度に導入した放射線照射なしに骨髄移植が可能な遺伝子変異マウス(WBB6F1-W/Wv)を用いて、造血幹細胞移植実験を実施した。

報告詳細
2.3.1.1 造血幹細胞の変化と寿命との関連(移植条件の検討)(332KB)
2.3.1.2 低・中・高線量率放射線がマウスの骨髄の造血環境に及ぼす影響(395KB)

2.3.2 免疫系解析

マウスが持っている抗がん免疫能(がん細胞を排除する機能)などに対する低線量率放射線の悪影響が、飼育環境変化により低減されるか否かを明らかにする。

平成28年度は、平成27年度に得られたデータを基に決定した実験計画により、卵巣顆粒膜細胞腫由来培養細胞を移植する系を用い、低線量率(20 mGy/日)γ線長期連続照射による移植腫瘍排除能低下に対する飼育環境影響観察実験を実施したが顕著な効果は見られなかった。今後、環境条件のさらなる検討をしたい。

報告詳細
2.3.2 免疫系解析(308KB)

2.3.3 内分泌系解析

低線量率放射線により誘発された卵巣機能障害が、照射メスマウスのがん発生頻度の増加及び寿命短縮の原因であるか否かを明らかにする。

平成28年度は、平成27年度に導入・確立した低線量率(20 mGy/日)γ線を長期連続照射したメスマウスへの卵巣機能の補完処置及び非照射メスマウスにおける人工的な卵巣の切除処置を継続して行うとともに、その影響を評価するために性周期の解析及び体重測定を実施した。その結果、照射による性周期の異常と体重増加は卵巣移植により効率良く抑制されることを明らかにした。長期的な影響を調べるための卵巣移植も行った。

報告詳細
2.3.3 内分泌系解析(474KB)

2.4 低線量率放射線に対する分子細胞応答影響実験調査

低線量率放射線長期連続照射マウスで見られたがんの誘発や寿命短縮を理解するためには、低線量率放射線が個々の細胞において引き起こす遺伝子発現変化やゲノムの変異を明らかにすることが必須であると考え、以下の調査研究を行った。

2.4.1 低線量率放射線照射による細胞応答分子への影響解析

低線量率放射線照射により個体内の細胞中で誘起される遺伝子発現変化を、高中線量率との相違点、加齢との関連、雌雄差に重点を置いて解明する。

平成28年度は、低線量率(20 mGy/日)放射線長期連続照射メスマウスの正常組織サンプル(肝臓および膵臓)を材料として、臓器の機能の指標となる遺伝子の発現変化を経時的に追跡し、脂肪肝生成に関与している可能性のある遺伝子を見出した。また、次年度以降の雌雄差検討のため、オスマウスについての低線量率放射線長期照射と臓器サンプリングを行った。

報告詳細
2.4.1 低線量率放射線照射による細胞応答分子への影響解析(292KB)

2.4.2 線量率の違いによるゲノムへの影響解析

低線量率及び高線量率で放射線照射をしたマウスの脾臓細胞における転座型染色体異常誘発を解析したこれまでの調査の結果、両者は明白に異なる反応を示すことが分かっている。本課題では、染色体異常誘発について、線量効果関係や異常のタイプがどのような線量率で変化するかについて解析することにより、放射線効果における線量率依存性の解明を目指す。

平成28年度は、平成27年度に得られたデータを基に決定した条件を用いて低線量率と高線量率の間の5種類の線量率でのマウス照射を行い、うち2種類の線量率について染色体異常解析を行い線量効果関係を明らかにした。

報告詳細
2.4.2 線量率の違いによるゲノムへの影響解析(270KB)

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