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7. 低線量放射線の生物影響に関する調査研究

7.1 低線量放射線生物影響実験調査(継世代影響とその遺伝子変異に係る実験)

低線量率放射線の継世代影響を明らかにするため、低線量率(0.05 mGy/22時間/日、1 mGy/22時間/日、20 mGy/22時間/日;以下それぞれ0.05 mGy/日、1 mGy/日、20 mGy/日と表記)γ線を約400日間連続照射したオス親マウスを非照射メス親マウスと交配し、仔(F1)を得、さらにその仔同士の交配によって孫(F2)を得て、非照射対照群の仔・孫とともに、それらを終生飼育して死亡マウスの寿命、死因、発がん及び遺伝子変異等を調べる。オス親マウスの照射は、各群180匹を6回に分け7年間で終える計画である。平成20年度末までに、4回分(100匹)の照射を終了し、それぞれ仔と孫を含む3世代の妊娠率、出産匹数等繁殖データの収集、死亡個体の病理学的検索及び遺伝子解析用組織試料の凍結保存を行った。

また、生殖細胞遺伝子突然変異解析法を確立するため、高線量率(900 mGy/分)・高線量(8000 mGy)照射オス親マウス、非照射メス親マウス、及びそれらの交配によって得た胎子マウス、それぞれの組織から抽出・精製したゲノムDNAを用いて、オリゴマイクロアレイCGH法による突然変異検出法について検討を開始した。

報告詳細
7.1.1低線量率γ線連続照射オス親マウスの仔・孫への影響−病理学的検索−(196KB)
7.1.2低線量率γ線連続照射オス親マウスの仔・孫への影響−生殖細胞突然変異のゲノムワイド検索−(320KB)

7.2 低線量放射線の生体防御機能に与える影響調査

低線量率放射線の連続照射が免疫系に及ぼす影響を検討するため、低線量率(20 mGy/日および1 mGy/日)γ線を連続照射したマウスの脾臓リンパ球の比率と増殖能の変化を経時的に調べ、同日齢非照射マウスと比較した。低線量率(20 mGy/日)・高線量(1000〜8000 mGy)γ線連続照射マウスでは、脾CD8リンパ球数の低下傾向、Th2リンパ球比率の増加、およびTリンパ球増殖能の低下が認められた。一方、低線量率(1 mGy/日)・中線量(400 mGy)γ線連続照射マウスでは、このような脾臓リンパ球の変化は認められなかった。低線量率・高線量放射線照射による免疫細胞の比率や増殖応答能の変化は、免疫機能の低下あるいは変調につながり、寿命試験で認められた低線量率・高線量放射線照射マウスの早期腫瘍死や一部腫瘍の発生率上昇等にも関わっている可能性が考えられる。

また、寿命試験で認められた低線量率放射線連続照射マウスの体重増加の要因について検討した。低線量率(20 mGy/日)γ線連続照射マウスでは、体重及び肝・脂肪組織中脂質含有量が、同日齢非照射マウスと比較して有意に増加した。さらに、ヒトの肥満、脂肪肝、糖尿病及び高脂血症に関連して変動することが知られている因子群が、照射肥満マウスでも変動することがわかった。この体重増加と組織の脂肪化は、摂餌量の増加によらないが、照射マウスの摂餌量あたりの体重増加量が、非照射マウスと比較して大きくなる時期が特定できた。一方、中線量率(400 mGy/日;以下400 mGy/日と表記)γ線連続照射マウスでは、低線量率放射線連続照射の場合と異なり、摂餌量の減少、体重増加の抑制及び組織脂肪化の抑制等の反応が認められ、放射線の脂質代謝機能に及ぼす影響が線量率によって異なることが示唆された。

報告詳細
7.2.1低線量率γ線連続照射マウスの脾臓リンパ球サブセットの構成比解析(228KB)
7.2.2低線量率γ線連続照射マウスの脾臓ヘルパーT細胞比率とT細胞増殖応答(273KB)
7.2.3低線量率γ線連続照射マウスの体重増加と要因解析(165KB)

7.3 低線量放射線のがん関連遺伝子に与える影響調査

低線量率放射線の連続照射による発がんと遺伝子等への影響を検討するため、悪性リンパ腫の遺伝子発現変化、白血病のゲノム異常と細胞分化段階、脾臓組織リンパ球の遺伝子発現についてそれぞれ調べ、高線量率あるいは中線量率放射線照射と比較した。

悪性リンパ腫に関しては、低線量率(20 mGy/日)・高線量(8000 mGy)γ線連続照射マウス及び非照射対照マウスに発生した悪性リンパ腫の遺伝子発現変化を、マイクロアレイ法を用いて網羅的に調べた。その結果、照射マウスに生じた悪性リンパ腫では、シグナル伝達に関わるAlk遺伝子の高発現と、細胞死に関わるBax遺伝子の低発現という特徴的な発現変化を示す悪性リンパ腫が、非照射マウスに生じた悪性リンパ腫に比べて有意に多かった。同様な傾向が中線量率(400 mGy/日)照射でもみられるのかどうかについて今後比較を行う予定である。

白血病に関しては、低線量率(20 mGy/日)・高線量(8000 mGy)γ線連続照射マウスから発生した白血病細胞のゲノム異常と細胞分化段階を解析した。その結果、マウスの放射線誘発白血病に特徴的な2番染色体欠失がみられず、リンパ球系前駆細胞への分化が認められた。一方、中線量率(400 mGy/日)・高線量(4000 mGy)照射マウスから発生した白血病細胞は、高線量率(900 mGy/分)・高線量(3000 mGy)照射マウスの白血病と同様2番染色体欠失を有し、骨髄球系前駆細胞への分化が特徴的であった。以上の結果から、線量率の違いにより、ゲノム異常と細胞分化段階が異なる造血幹細胞・前駆細胞から白血病細胞が発生してくる可能性が示唆された。

脾臓組織リンパ球の遺伝子発現に関しては、低線量率(20 mGy/日)γ線を最大100日間連続照射したマウスの脾臓Tリンパ球の遺伝子発現量を調べた。その結果、p53依存的に発現する遺伝子のうち、p21遺伝子の高発現が観察されたが、中線量率(400 mGy /日)照射マウスの脾臓Tリンパ球と異なり、Cyclin G1等遺伝子の発現量増加はみられなかった。以上の結果から、線量率の違いによりp53による遺伝子発現制御機構が異なる可能性が示唆された。

報告詳細
7.3.1低線量率γ線連続照射マウスに生じた悪性リンパ腫の遺伝子発現(273KB)
7.3.2低線量率γ線連続照射マウスに生じた白血病のゲノム異常と細胞分化段階の線量率による違い(594KB)
7.3.3低線量率γ線連続照射マウスの脾臓組織のリンパ球で発現する遺伝子の解析(167KB)

8. 生物学的線量評価に関する調査研究

低線量率・低線量放射線被ばく時の被ばく線量を、染色体異常を指標として推定する生物学的線量評価法を確立するため、I期調査の1/20にあたる、低線量率(1 mGy/日)γ線長期連続照射マウスの脾臓細胞に生じた染色体異常頻度について調べた。その結果、二動原体異常頻度と転座型染色体異常頻度のいずれもI期調査の低線量率(20 mGy/日)長期連続照射マウスの染色体異常頻度より低かった。クローンの出現は、これまでのところ(300日間連続照射終了時点;集積線量300 mGy)認められていない。また、低線量率トリチウムベータ線のヒトリンパ球の染色体への影響を調べるため、必要な培養技術等の検討を行った。

報告詳細
8.1低線量率γ線連続照射マウスの脾細胞における染色体異常とクローン出現頻度(215KB)

II.放射性物質等の環境影響に関する普及啓発

1.排出放射性物質影響調査研究情報発信活動

「排出放射性物質影響調査」によって実施されてきた調査研究の内容や得られた成果等を、報告会の開催、説明活動の実施等によって青森県民に直接紹介する他、インターネットホームページ及びパンフレットにより発信した。

報告会は、青森市、六ヶ所村、弘前市及び八戸市で開催し、放射性物質の環境と人体中での動きを評価する計算モデル、染色体異常から被ばく線量を推定する生物学的線量評価等について紹介した。

説明活動は県内で17回実施し、前年度の報告会で紹介した内容を基に、青森県内の環境中の自然放射線と天然放射性物質及び低線量放射線の生物影響について説明した。また、青森市内の大学学園祭に参加して、成果とともに放射線に関する基礎的な内容を説明した。

ホームページに関しては、用語解説のページを制作し、紹介している調査内容を理解し易くするとともに、報告会配布資料も掲載した。

パンフレットについては、排出放射性物質影響調査の概要を紹介するために青森県が発行するパンフレットの原稿を作成した他、放射線に関する基礎知識をまとめたパンフレットを作成した。

2.その他の活動

環境研の活動等を発信するため年報及び環境研ニュースを発行するとともに、自然科学に対する関心を高めるため六ヶ所村の小学生等を対象とした理科教室を開催した。

III.その他

六ヶ所村からの依頼により、田茂木沼の水質調査を実施した。

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