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4. 低線量率放射線による被ばく影響の実証調査研究

人の被ばく影響のデータのほとんどは、高線量率急性被ばくに関する知見(原爆被爆者のデータ)であり、低線量率長期被ばくに関する知見は極めて少ないことから、これらの知見を得ることは重要である。そこで、本調査では、制御された条件下で多数のマウスに低線量率放射線の長期照射を行い、各種影響に関するデータを取得する。既に、成体期における低線量率被ばくによる影響に関しては多くの知見を蓄積してきているが、現在、放射線リスク評価において最も重要な課題の一つとされているのが、年齢や生活環境などによる放射線感受性の個体差である。そこで、本調査では、特に子供の被ばくによる影響(幼若期被ばく影響解析)、及び生活環境などによる放射線影響の修飾作用(修飾要因解析)に焦点を当て調査を行った。

4.1 幼若期被ばく影響解析

幼若期(出生から56日齢)における低線量率放射線連続被ばく影響の全体像を、出生前に照射した場合、成体を照射した場合と対比しつつ明らかにする。照射後短期間で現れる影響(生殖能力、行動異常や染色体異常など)を検索する「短期影響解析」、及び終生飼育し体重、寿命、死因、発がんなどを検索する「長期影響解析」を行う。

令和3年度は、短期影響解析及び長期影響解析に用いる至適放射線照射線量及び実験手法を決定するための「フィージビリティ試験」を実施した。

報告詳細
4.1 幼若期被ばく影響解析(553KB)

4.2 修飾要因解析

マウスの餌や飼育環境による低線量率放射線長期照射の影響の大きさや現れ方の変化を、腫瘍発生率や免疫能等を標識に遺伝的背景が異なるマウスを用い解析し、放射線被ばく影響の修飾要因及びその作用を明らかにする。

令和3年度は、これまでに確立した条件を用い、飼育環境を変更した(環境エンリッチメント飼育実験)を開始し、照射開始、0、200、300、400日目のマウスから採取した末梢血・脾臓・骨髄細胞を用いて、免疫に関わるパラメータを取得した。また、大腸腺腫症モデルマウスを用いた腸腫瘍発生への放射線照射と抗酸化剤投与による影響を観察する実験を行った。

報告詳細
4.2 修飾要因解析(412KB)

5. 低線量率放射線被ばく影響の発現機序調査研究

人の低線量率被ばくに関するデータが十分ではないため、高線量率被ばく時(原爆被爆者)のデータを用いて、低線量率被ばく時のリスク評価を行っている。しかしながら、リスク評価を行うために必要な低線量率と高線量率での放射線影響の発現機序の違いに関する知見は非常に不十分である。そこで、本調査では低線量率放射線被ばく影響の発現機序に関する知見を得ることを目的とし、特に、これまでの調査で変化が見られた、遺伝子発現等への影響(細胞・分子・遺伝子への影響の解析)及び個体の恒常性維持機能等への影響(生理機能への影響の解析)に着目し、高線量率放射線の場合と対比しつつ解析を行う。

5.1 細胞・分子・遺伝子への影響の解析

細胞や分子、遺伝子のレベルでの低線量率放射線影響の発生機序を調査するが、これまでの調査の結果に基づき特に、「エピジェネティックな変化」すなわち、細胞の遺伝子の発現変化の原因となっている変化(DNAメチル化変化等)、また遺伝子発現変化の結果として生じる細胞の性質の変化を解析する。

令和3年度は、これまでに確立した解析手法を用い、マウス低線量率長期照射及び経時的サンプリング実験を開始した。また、肝臓細胞におけるDNAメチル化変化等の解析、肝臓から分離・培養した幹細胞・前駆細胞(オルガノイド)を用いた細胞の分化状態と低線量率放射線に対する応答能の解析を行った。

報告詳細
5.1 細胞・分子・遺伝子への影響の解析(603KB)

5.2 生理機能への影響の解析

低線量率放射線が生理学的恒常性維持のためのネットワークに与える影響を調査する。特に、これまでの調査により放射線の影響が顕著であることが明らかとなった内分泌系、また近年そのリスク評価が強く求められている神経系及び血管系を対象とした解析を行い、低線量率放射線照射による個体レベルの影響発現機序について全体像を得る。

令和3年度は、これまでの予備的検討の結果等を踏まえ、低線量率放射線の卵巣への影響が他臓器へ伝播していく機構、マウスの日周期時間に対する低線量率放射線の影響、及び低線量率放射線照射された血管内皮細胞に生じる特徴的なシグナルの解析を進めた。

報告詳細
5.2 生理機能への影響の解析(574KB)

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