研究報告(平成12年度)

平成12年度環境科学技術研究所年報から、「第T部 概況」を転記しました。

第T部 概況

第1章 事業の概要

平成12年度においては、平成11年度に引き続き、国および青森県から、放射性物質等の環境影響に関する調査研究として10件、原子力と環境のかかわりに関する知識の普及活動として1件を受託し、計画どおりに実施した。その調査研究活動の一環として、「環境中における放射性核種の分布と存在形態に関する国際検討委員会」を、六ヶ所村の文化交流プラザ「スワニー」において開催した。

理科教室等の地域協力活動を通じて、科学・技術に関する知識の普及・啓発を図るとともに、国内および国際的な学会活動、研究者の招聘等を通じて、研究の国内および国際交流に努めた。

また、居住実験研究棟の新築工事および付帯設備整備を行うとともに、平成11年度に引き続き全天候型人工気象実験施設の設備整備を行った。

第2章 事業の内容

1.放射性物質等の環境影響に関する調査研究

1.1 自然・社会環境調査

青森県における家畜飼育実態を把握するため、畜産農家を対象にアンケート調査を行った。乳用牛、肉用牛、肉豚、食用鶏、採卵鶏の飼育農家計53戸からの回答によれば、飼料給与量平均は飼養標準と良く整合しており、乳用牛では牧草や青刈飼料作物が多用されているのに対し、肉用牛では濃厚飼料の給与が多かった。牧草と青刈トウモロコシの摂取量について、安全審査に用いられた値が安全側であることを確認した。

1.2 環境放射線(能)の分布に関する調査研究

(1)むつ市における環境γ線線量率の分布と変動要因

青森県内で比較的線量率の高かった市町村の一つ、むつ市について環境γ線線量率の分布調査を行った。その結果、日本海側地域よりは低いが、全県平均と同程度であることが分かった。スペクトル測定の結果から、むつ市では県内平均値に比べTh系列核種の寄与が若干高く、U系列核種の寄与は若干低いことが分かった。また、気象との関連では、降水時には214Biが線量率に寄与することが分かった。

(2)特殊職場環境(園芸用ガラス室・ハウス)におけるラドン濃度

青森県における職場環境でのラドン濃度調査の一環として、計28地点の園芸用のビニールハウスとガラス温室についてラドン濃度調査を行った。パッシブ法によるラドン濃度の算術平均値は13Bqm-3であった。この値は昨年までの屋外職場環境における濃度の約3倍で、一般家屋の屋内濃度と同等であった。床面をシートで覆うか否かがラドン濃度に大きく影響する可能性があることが分かった。

1.3 放射性物質等の環境移行に関する調査研究

(1)大気からの物質の除去機構に関する調査研究

雨、雪、霧等による大気からの物質の除去機構を明らかにすることを目的とし、平成12年度は降雪の役割について検討した。降雪時に大気中浮遊粒子ならびに降下物(雪)を時系列採取し、元素分析を行った。その結果、元素の種類により除去機構が異なる可能性があることが分かった。

(2)植物中での微量元素の挙動に及ぼす湿度、光質の影響

湿度影響調査では、相対湿度をそれぞれ50%、70%、90%に調節した人工気象装置内でキュウリ幼植物を栽培し、成長等に与える影響について検討した。強い光(50,000ルックス)の下では植物の成長に及ぼす湿度の影響は見られなかったが、弱光(20,000ルックス)下では湿度が高いほど葉面積が大きくなること、また植物体中元素濃度に与える影響は、元素によって異なることを明らかにした。光質影響調査ではハツカダイコン幼植物を用い、白色光、赤色光、青色と赤色の混合の3区における成長と植物体中元素濃度に与える影響について検討し、興味ある知見を得た。

(3)青森県における灰色低地土の分配係数

青森県内34地点の圃場から採取した灰色低地土を対象に、バッチ法ならびに土壌間隙水を高速遠心法により採取する方法を用いて種々の安定元素の分配係数を測定した。また、土壌の特性として電気伝導率、陽イオン交換容量、pH、粒径分布、比表面積、炭素含量等の測定も行った。青森県の灰色低地土の分配係数はIAEAの報告値に比較して高い値を示し、バッチ法と高速遠心法との間に大きな違いは認められなかった。また、土壌特性と分配係数との関係についても検討した。

(4)六ヶ所村沿岸海域における生態系の構造と放射性核種等の挙動

海洋放出口を中心とした海域における植物プランクトンを主体とした懸濁有機物の分解に伴う放射性核種等の溶出メカニズムを探ることを目的に調査を行った。海面から生産層と分解層の境界となる日補償水深は季節を反映して25〜65mと大きく変動すること、懸濁有機物の分解速度の温度依存性が高いこと、溶存有機炭素濃度は沖合いに行くほどまた深度が大きくなるほど減少することなどを観察した。海水中の90Sr、137Cs、238U等の濃度は、時空間的変動を示すが、その変動に明確な規則性は認められなかった。

(5) 尾駮沼における放射性核種等の分布と挙動

尾駮沼における放射性核種の環境動態ならびにその動態に及ぼす環境要因の影響を明らかにすることを目的とし、平成12年度は環境要因の中から溶存有機物に着目し、その変動特性ならびに放射性核種濃度との関係について調査した。その結果、ウラン濃度と溶存有機物濃度との間には直接的な関係は認められなかったが、堆積物中の有機物の分解に伴う酸化還元状態の変化がウランの挙動に影響を及ぼすことが明らかになった。

1.4 生物圏物質循環総合実験調査研究

(1) 栄養要求の再検討

閉鎖環境下における居住者の栄養要求を満たすために、栽培候補としていた7品目の植物の成分は、調理前の計算では十分に要求を満たすものであった。しかし、調理等の加工を施すことによる成分の損失、および栽培条件によっては成分が食品成分表の値と異なる可能性が出てくることから、閉鎖系植物モジュール内で栽培した植物の成分分析を行う必要性が明らかになった。また、閉鎖系植物モジュール内で栽培が可能な限られた植物種で、被験者に受け入れられる食事を構成することができるかどうかを検討するため、2日間の食事メニューを作成した。

(2) 植物実験施設における物質循環に関する試験

イネ(ムツホマレ)の生長に対する最適明期温度は26〜28℃と推測でき、葉身から葉鞘、葉鞘から穂への物質転流は、明期気温28℃で生育した場合、26℃生育の場合より早期に起こった。CO2濃度を通常の2倍である700ppmとして生育させたイネでは、全乾物重あたりの葉面積が減少した。

また、植物栽培モジュール内での環境条件はほぼ一定に維持されているが、状況によっては短期的に環境条件を変化させることがある。環境条件を変化させた時の影響について検討するため、光、温度、CO2濃度を2週間に一度短期的に変化させ、純光合成量に及ぼす影響を調べた。

(3) 動物飼育試験

閉鎖系内で栽培した植物の非可食部を与えて飼育する場合の給餌量を算出するため、シバヤギのエネルギー要求量を推定する試験を行った。絶食試験の結果、体重維持に必要な摂取エネルギーは、餌がチモシー乾草の場合、1日当り1996kcalであった。しかし、消化吸収率が飼料の種頚によって変わることとシバヤギの個体差を考慮して、体重当りの摂取エネルギー量とエネルギー出納との関係を調べる試験を実施し、体重から必要エネルギー量を求める推定式を導いた。また、閉鎖環境がシバヤギに与えるストレスを検討するために、閉鎖区と対照区のシバヤギの行動を比較したところ、閉鎖区では飲水量、飲水回数、ケージをなめる行動などが増加したことから、ストレスの蓄積が示唆された。

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