研究報告(平成19年度)

平成19年度環境科学技術研究所年報から、「第T部 概況」を転記しました。

はじめに

平成19年度においては、青森県から、放射性物質等の環境影響に関する調査研究として12件、及び放射性物質等の環境影響に関する知識の普及啓発として1件を受託し、計画どおりに実施した。その調査研究活動の一環として、14C環境移行モデリングへの閉鎖系実験施設の応用に関する国際検討委員会を、六ヶ所村の文化交流プラザ「スワニー」において開催した。

また、先端分子生物科学研究センター第2研究棟の整備を行った。

受託事業の概況

I.放射性物質等の環境影響に関する調査研究

県から受託した12件を、8項目21課題に分類し、課題ごとに成果の概要を報告する。

1. 天然放射能による被ばく線量に関する調査研究

自然放射線・天然放射性核種による青森県民の被ばく線量評価、また生態系の被ばく線量評価法の開発を行うことを目的とし、平成18年度に引き続き、六ヶ所村及び青森市において収集した日常食や食品の放射化学分析を行い、内部被ばく線量を推定した。更に、六ヶ所村の森林生態系としてミズナラ林を選び、そこに生息する小哺乳類の受ける内部被ばく吸収線量を推定した。

2. 放出放射能の環境分布に関する調査研究

2.1 環境移行・線量評価モデルの高度化

大型再処理施設から放出される放射性核種を対象として、地域特性を考慮したより現実的な線量評価を行う「総合的環境移行・線量評価モデル」を構築することを目的とし、平成19年度は、前年度までに整備した「陸域移行・線量評価モデル」と「尾駮沼低次栄養段階生態系放射性核種移行モデル」を統合し、「環境移行・線量評価モデル」とした。また、大気拡散過程の精度向上のために導入する気象モデルを選定した。尾駮沼に関するモデルの高度化を図るため、「尾駮沼集水域放射性核種移行モデル」の水循環に関する部分を構築し、更に、「尾駮沼高次栄養段階生態系放射性核種移行モデル」の基本設計を行った。

2.2 環境移行・線量評価モデルとパラメータの検証

「環境移行・線量評価モデル」並びにモデルに用いられている各種パラメータの検証を行うため、施設から放出される放射性物質の環境中における分布について調べた。平成19年度には、アクティブ試験に伴って排出された放射性核種(3H、85Kr、129I)が認められ、これらのうち、大気中85Krによるγ線線量率及び大気中3H濃度を用いて、環境移行・線量評価モデルに組み込まれている大気拡散モデルの検証を行い、数週間の平均濃度については比較的良く再現できることを確認した。今後、他の核種についても放出源情報を基に、モデル・パラメータの検証を進める。

2.3 パラメータの充実
2.3.1 放射性物質の形態間移行

放出放射性核種の環境中での移行を精度良く評価することを目的として、環境中における微量元素の形態別分析に基づき、土壌内及び水中における形態間移行速度を求めた。土壌中に添加したCs、Srの形態変化と植物吸収との関連を調査した結果、Csは時間の経過に伴い植物への移行率が低下する傾向が認められた。天然の淡水にランタノイド、アクチノイド及びヨウ素を添加し、その形態変化を調査したところ、いずれも極めて迅速に変化することが認められた。

2.3.2 作物葉面における挙動

植物の葉面に沈着した放射性核種の葉面吸収、転流に対する湿度の影響を明らかにするため、安定Cs及びSrエアロゾルを用い、大型人工気象室内において気象条件をコントロールした実験を行った。その結果、硝酸塩の葉面吸収は湿度とともに増加するが、塩化物においては変化しなかった。

3. 植物の元素集積性に関する調査研究

青森県の環境条件に適した植物による環境浄化対策に資することを目的として、土壌からのCs、Sr及び微量元素の除去効率(面積当たりの収奪量)が高い元素集積植物を数種類見出した。また、すでに得られているCs耐性を持つモデル植物について、耐性を制御する遺伝子を絞り込んだ。更に、葉緑素合成系の酵素をノックアウトした植物にCs耐性を認めた。これにより、浄化用植物にCs耐性を付与できる可能性が示された。

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