研究報告(平成26年度)

はじめに

平成26年度においては、当研究所の主要事業としてこれまで行ってきた大型再処理施設排出放射能影響調査交付金事業に基づき、環境影響及び生物影響に関する調査研究を青森県から受託し進めている。それに加えて、国が進める福島第一原子力発電所事故に伴う放射性物質の長期的影響把握手法の確立のための放射能測定を日本原子力研究開発機構を通じ受託し、環境省からは低線量率放射線長期被ばくによる生体影響の低減化に関する研究、極低線量率放射線連続被ばくマウスを用いた健康影響解析の研究を受託した。また、それらの調査研究に係る情報を青森県民に対して発信する活動を行った。さらに、大型再処理施設排出放射能影響調査交付金事業の成果と将来計画を評価するための企画評価委員会の運営を受託し、計画通りに実施した。加えて、大学・高専の学生に対して放射線の実習・講義等を行い、人材育成を支援した。その他に、研究領域の拡大や新たな調査研究の展開を目指して、研究所独自の自主研究を行った。

受託事業の概況

T.放射性物質等の環境影響等環境安全に関する調査研究

青森県からの受託調査研究事業、その他の受託調査研究事業及び自主研究について報告する。

1. 排出放射性物質の環境影響に関する調査研究

1.1 総合的環境移行・線量評価モデルの精度向上と拡張

大型再処理施設から排出される放射性核種による中長期にわたる現実的な被ばく線量を評価することを目的として、平成22年度までに開発した総合モデルの精度向上のために、これまでの調査で得られた放射性核種の形態別挙動及び地域の自然環境を考慮した放射性核種の挙動を組み入れ、さらに、鷹架沼及びその集水域に関する放射性核種移行モデルを構築し、総合モデルを拡張する。

これまでに、放射性核種の形態別ウェザリング挙動、積雪がトリチウムの環境挙動に与える影響等を組み入れてきた。平成26年度は、平成25年度に行った基本設計に基づき、鷹架沼の流動サブモデル及び鷹架沼集水域の水収支サブモデルの構築を行った。また、総合モデルのサブモデルである大気拡散モデルを改良し、大気拡散の予測精度を高めた。さらに、施設近傍の鷹架沼及びその集水域における放射性核種移行モデル構築のために、鷹架沼の流況、沈降粒子量及び湖底湧水量を明らかにするとともに、鷹架沼集水域の地下水位及び地下水滞留時間等の水文データを実地調査により取得した。

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1.1 総合的環境移行・線量評価モデルの精度向上と拡張(544KB)

1.2 総合的環境移行・線量評価モデルの検証

大気、降水をはじめとして陸域、湖沼及び沿岸海域から採取する環境試料及び日常食中の放射性核種濃度(3H、14C、129I等)を測定し、得られたデータを用いてこれまで構築した総合的環境移行・線量評価モデル(総合モデル1.2)を検証する。

平成23年度から継続的に調査を実施しており、平成26年度は、ほとんどの試料中の排出放射性核種濃度にバックグラウンドレベルからの上昇は認められなかったが、土壌や湖底堆積物等に大型再処理施設のアクティブ試験によって排出された129Iが残留し、アクティブ試験の核燃料せん断・溶解作業終了後6年が経過しても、その蓄積量に大きな変化は認められなかった。さらに、福島県飯舘村の小河川において、地上に沈着した137Csの河川による流出率が暫時減少していることを明らかにした。

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1.2 総合的環境移行・線量評価モデルの検証(1192KB)

2. 放射性ヨウ素の環境移行パラメータに関する調査研究

大型再処理施設から排出される129Iからの現実的な被ばく線量や環境中挙動を評価するには、放射性核種の移行を記述する各種のパラメータが必要である。そこで、現実的な被ばく線量評価用パラメータ及び土壌における浸透性を決定する移行パラメータ並びにそれらに与える環境因子の影響を明らかにして、放射性ヨウ素の環境移行予測の精度向上に資するため、以下の調査を行う。

2.1 牧草におけるヨウ素のウェザリング係数

牧草の葉面に付着したヨウ素の葉面吸収、除去(ウェザリング)及び揮散の速度を物理・化学形態別に求める。

平成25年度までに、粒子状又は液状ヨウ素(I-)の葉面吸収速度及び葉からの揮散速度を生長段階別に求めると共に、粒子状、液状及び無機ガス状で葉面に負荷したヨウ素の風及び雨によるウェザリング速度を求めた。平成26年度は、液状ヨウ素酸イオン(IO3-)の吸収と揮散を牧草の生長段階別に調査した結果、生長段階に依らず、負荷したヨウ素の8割以上が葉面上に存在したままであることが明らかとなった。更に、無機ガス状(I2)で葉面に負荷したヨウ素は、霧により植物から除去されなかった。IO3-を粒子状又は液状で負荷した葉面上のヨウ素は、霧へのばく露時間の経過により指数関数的に減少し、I-を同様に負荷して霧水密度を変えた場合には、2つの霧水密度の指数関数に従って減少することが分かった。

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2.1 牧草におけるヨウ素のウェザリング係数(513KB)

2.2 水産生物におけるヨウ素の形態別濃縮係数

海水中のヨウ素はI-、IO3-の化学形態をとることが知られている。海水から生物へのヨウ素の濃縮係数は化学形態により異なると考えられるため、青森県沿岸域の水産物(海藻等)を対象に、海水中I-、IO3-からの濃縮係数を室内実験により求める。

平成25年度までに、海藻類(緑藻、褐藻)のヨウ素の化学形態別濃縮係数を求めると共に、XAFSを用いて海藻類(緑藻、褐藻)中のヨウ素の化学形態を明らかにした。平成26年度は、125I- 又は125IO3-を添加した海水からエゾアワビ中腸腺及び筋肉への125Iの移行を経時的に測定した。その結果、125I-は中腸腺と筋肉にほぼ同様に取り込まれるが、125IO3-にばく露した場合には中腸腺の125I濃度が筋肉より高かった。加えて、エゾアワビ中腸腺を対象としたXAFS測定により、ヨウ素の約90%が有機態であることが分かった。

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2.2 水産生物におけるヨウ素の形態別濃縮係数(600KB)

2.3 土壌におけるヨウ素の浸透性

土壌に沈着した放射性ヨウ素の一部は下方に浸透し地下水へ移行するため、放射性ヨウ素の土壌浸透性とそれに与える植生等の環境因子の影響を明らかにする。

平成25年度までに、六ヶ所村内2地点(二又、尾駮)の土壌(0〜50 cm)を対象に分配係数の測定を行い、ヨウ素の浸透速度を求めた。また、表層土壌の温度及び水分がヨウ素存在形態に与える影響を検討した。加えて、土壌中のヨウ素の存在形態に与える生物学的要因として植物根の影響を検討した。

平成26年度は、六ヶ所村二又で採取した深度0.5〜3.0 mの土壌コアを対象として分配係数(Kd)法から125I-の下方浸透速度を求め、これまでに求めた表層での結果と合わせたところ、浅層では表層より小さな値であったが、2 m以深では著しく大きな値を示した。

さらに、表層土壌の土壌溶液中ヨウ素の化学形態への物理・化学的要因の影響を明らかにするために、草地及び森林の表層土壌(0〜20 cm)の土壌溶液中の形態別ヨウ素濃度及びpH等の各種化学的要因を調査したところ、ヨウ素の浸透性には土壌中有機ヨウ素が関わっており、有機炭素の影響を受けることが示唆された。

加えて、生物学的要因がイネ根圏中ヨウ素の化学形態に与える影響を明らかにするため、牧草及び野生植物を土耕栽培し、根圏中ヨウ素の存在形態を調査した結果、根圏における土壌溶液中のI-- 、有機態ヨウ素濃度は植物の存在する場合に高くなり、植物種間による差異もあることが明らかになった。

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2.3 土壌中ヨウ素の浸透性(620KB)

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