研究報告(令和2年度)

はじめに

大型再処理施設放射能影響調査事業の一環である環境影響及び生物影響に関する調査研究を、当研究所の主要事業として、これまで青森県から受託しており、令和2年度においても同事業を受託し、これを遂行した。それに加えて、環境省が必要とする研究テーマを提示して公募を行う環境研究総合推進費の調査研究や六ヶ所村からの要請による受託研究を行った。また、それらの調査研究に係る情報を青森県民に提供するための情報発信活動等を行った。さらに、研究領域の拡大や新たな調査研究の展開を目指し、研究所独自の自主研究による研究を行った。その他、学生に対する放射線の実習・講義等により、人材育成を支援した。

事業の内容

T.放射性物質等の環境影響等環境安全に関する調査研究

排出放射性物質の環境影響に関する調査研究では、これまでに開発した気圏、陸圏、水圏における放射性核種の移行及び人体の被ばく線量を評価する総合的環境移行・線量評価モデル(総合モデル)を高度化するとともに、検証を目的として、各環境試料中の排出放射性核種濃度を測定した。さらに、より現実的な線量評価を行うために、放射性炭素等を対象とした環境からリンゴ等の県内産物への移行や、六ヶ所村の大型再処理施設から大気排出されるトリチウムのうちHTが土壌中でHTOに酸化される速度の測定手法の確立を進めた。加えて、六ヶ所村の大型再処理施設周辺に分布するクロマツの被ばく線量評価法の開発及び土壌から作物への放射性セシウムの移行低減化手法の開発を実施した。(1節)

低線量放射線の生物影響に関する調査研究では、マウスを用いて低線量率放射線長期連続照射の子孫への影響(継世代影響)を高線量率放射線照射と比較する研究を行った。さらに、低線量率放射線が引き起こす細胞レベル・分子レベルの変化に関する研究、低線量率放射線が個体レベルの生理学的調節・統合機能に与える影響に関する研究、並びに放射線影響の大きさや現れ方を変化させる「修飾要因」に関する研究を行った。(2節)

また、環境省が進める環境研究総合推進費による六ヶ所村の大型再処理施設周辺のヨウ素に関する研究や競争的研究資金による研究や六ヶ所村からの要請による環境調査や浄化手法開発、地域振興に関する受託研究、環境科学技術研究所自主研究、及び科学研究費補助金による研究を行った。(3節〜5節)

1. 排出放射性物質の環境影響に関する調査研究

1.1 排出放射能の環境移行に関する調査研究

平成27年度までに開発した六ヶ所村の大型再処理施設から排出された放射性核種の環境における移行及び被ばく線量を評価する総合モデルを高度化し、実測データによる検証を行うため、以下の調査研究を行った。

1.1.1 総合モデルの高度化と運用体制の構築

総合モデルの高度化を行うため、大気中放射性核種濃度等の実測値をデータ同化する機能、被ばく線量の確率論的評価機能及びこれまでの調査で得られた知見をモデルに導入する。また、気象データをオンラインで入手し、使用する運用体制を整えるとともに、水圏関連サブモデルへの機能追加等を行う。

令和2年度は、総合モデルに導入した被ばく線量の確率論的評価機構の機能評価を行った。さらに、陸域移行サブモデルへ土壌−牧草間のCs移行係数の経時変化を取り入れた実験式を導入した。加えて、データ同化機能を含めた総合モデルの全体的な性能の評価を行った。

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1.1.1 総合モデルの高度化と運用体制の構築(564KB)

1.1.2 大型再処理施設周辺等データの取得とモデル検証

六ヶ所村の大型再処理施設の本格稼働に備えて、気圏、陸圏及び水圏環境における排出放射性核種の濃度及び動態に関するフィールド調査を実施し、モデル検証用の基礎データとする。また、青森県内で得られにくい、137Cs等の環境移行パラメータを福島県において取得する。

令和2年度は、六ヶ所村等の気圏及び陸圏環境における大気、降下物、土壌、植物、日常食及び農畜水産物、並びに水圏環境における水、堆積物、懸濁粒子及び水生生物中の放射性核種濃度を求めるとともに、環境研構内に整備した圃場において栽培した農作物中の排出放射性核種(3H、14C及び129I)濃度を測定して、総合モデルの検証に資しする知見を得た。さらに、青森県内で得られにくい、137Cs等の土壌からの再浮遊、河川を通じての移動等に関連する環境移行パラメータを福島県において取得した。

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1.1.2 総合的環境移行・線量評価モデルの検証(506KB)

1.2 青森県産物への放射性物質移行に関する調査研究

排出放射性核種を対象として、経済的に重要な青森県産の農産物である果樹(リンゴ)、畑作物(ナガイモ)、同様に海産物であるヒラメ、ホタテガイへの移行に関する実験を行い、それぞれの移行サブモデルを構築する。このため、以下の調査研究を行った。

1.2.1 農産物への放射性物質移行調査

本調査では、リンゴ成木を対象として14Cの大気からの移行・蓄積モデルを構築するとともに、ナガイモについての同様のモデルを構築するために室内における栽培手法を確立する。さらに、リンゴ樹に負荷した安定ヨウ素等の移行・蓄積及びウエザリングモデルを構築する。

令和2年度は、リンゴ成木を対象とした13CO2ばく露試験を行うための手法及び生長データの取得法を確立するとともに、ナガイモのムカゴからの栽培手法確立に向けた試験を開始した。さらに、ふじ幼木を対象に、粒子状ヨウ素及びセシウムの降雨によるウェザリング実験を行うとともに、姫リンゴ幼木を対象に、液状ヨウ素の葉面への負荷実験を行い、それぞれの移行パラメータを取得した。

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1.2.1 農産物への放射性物質移行調査(718KB)

1.2.2 海産物への放射性物質移行調査

本調査では、海水からヒラメへの放射性ヨウ素の移行モデル、海水からホタテガイへのトリチウム及び放射性ヨウ素の移行モデル、及び餌料からホタテガイへのトリチウムの移行モデルを構築する。

令和2年度は、ヒラメへの放射性ヨウ素移行調査及びホタテガイのトリチウム移行調査のための、実験系の構築を行った。

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1.2.2 海産物への放射性物質移行調査(583KB)

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