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1.5 生物圏物質循環総合実験調査研究

(1)栄養要求を満たす植物栽培法の検討

植物栽培モジュールを用いて生育段階の異なる作物を同時に栽培(シークエンス栽培)する試行実験を行い、実験主任者(居住者)2名分の栄養を供給するための栽培方法について検討を行った。植物からの栄養供給量と実験主任者2名分の栄養所要量を比較すると、たんぱく質と炭水化物については2名分を供給することは可能であったが、エネルギーで約2割、脂肪では約4割が不足していた。今後実験主任者の栄養所要量を満たすため、エネルギーや脂肪成分等の多い植物の栽培について検討することとした。

(2)植物実験施設における物質循環に関する試験

閉鎖居住実験における主要な候補作物であるイネとダイズをシークエンス栽培した際に、O2発生量およびCO2吸収量を平準化することができるかどうかについて実証試験を実施した。イネとダイズの両群落で、CO2吸収量はほぼ安定した推移を示した。O2発生量については、今後その検知システムについて検討を要するが、シークエンス栽培期間全体としてみれば、O2発生量とCO2吸収量の比が、栄養組成データから計算した結果と非常に近い値であることから、O2発生量についても安定した推移を示すものと推測された。

(3)動物飼育試験

シバヤギを用いた短期閉鎖実験を行い、閉鎖型生態系実験施設(CEEF)が動物へ与えるストレスの短期的影響を調査した。ストレスは、心電図、行動、血液生化学性状等により評価した。その結果、シバヤギは、活動範囲が限定されることによりストレスを受けるが、発情回帰も見られたことから、短期飼育では、ほとんどストレスを受けないものと考えられた。また、CEEF内での行動は、CEEF外の日周期と同一の生活パターンを示したことから、体内時計も失調しなかったことが判明した。

1.6 閉鎖系陸・水圏実験施設を用いた物質循環調査研究

(1)水圏生態系に関する試験

生態系の基礎生産者となる海草の短期間の育成は可能であるが、さらに長期に及ぶ場合には光量および栄養塩の補給が必要であることが判明した。アマモが自生しているアマモ場における生物相調査では、巻き貝、甲殻類や多毛類の出現が多くみられた。また、遊泳能力を有する甲殻類が現場では相当量存在することが明らかとなった。分解試験の結果では、海草の葉はそのままの状態では微生物による分解が2年以上と、緩慢であることが判明した。

水圏実験施設の機能試験により、5kW水中灯による補光が、飼育槽内の光環境をアマモの育成可能な状態にするのに有効であることを確認した。

(2)陸圏生態系に関する試験

尾駮沼の沼岸に自生する陸上植物を対象とし、陸圏実験施設内での植生の維持の可否および問題点を明らかにするために、自生地植物を土壌とともにコンテナに移植し、陸圏施設内で栽培、管理した。その結果、春から秋にかけての試験期間では、自生地と比較し、出現植物種およびそれらの生育に顕著な差は認められず、施設内での維持、管理は可能であると考えられる。

陸圏実験施設の夏季条件での気温制御試験の結果、温度制御はほぼ設計仕様を満たしていた。

1.7 閉鎖型生態系実験施設の要素技術の開発研究

(1)生物系廃棄物処理技術に関する試験

バイオリアクタの重要な要素として位置付けられる廃水処理を好気-嫌気活性汚泥処理方法により実施し、物質の処理過程を速度論的に評価した。その結果、有機物の除去は基質濃度に依存する一次反応であることが確認された。また好気処理は嫌気処理と比較して高い処理性能を持ち、生物系廃棄物の処理には、好気処理が重要な役割を担うものと考えられた。また嫌気処理による脱窒処理は窒素を気体として処理系から分離できるため、処理水の窒素バランスを制御することができると考えられた。

(2)微生物利用有害ガスバイオリアクタに関する試験

生物学的有害ガス分解法として、土壌によるキシレン、トリメチルアミン、メチルメルカプタンの除去試験を行った。キシレンは土壌微生物により分解され、トリメチルアミン、メチルメルカプタンは土壌に吸着されることを確認した。物理化学的有害ガス分解法として、高電圧放電を利用したプラズマ分解実験装置の設計、製作を行った。

(3)実験施設制御に用いるシミュレーションソフトの検討

開発を進めている閉鎖系施設内の各物質の挙動を予測するために、物質循環を計算するためのアルゴリズムを検討し、プログラムを作成した。さらに閉鎖型生態系実験施設の植物栽培モジュールを中心とした系について、単純化したモデルを作成して、上記のプログラムと組み合わせて炭素、水素、酸素、窒素などの循環量を予測する試験計算を行った。

試験計算の結果は、施設の設計と比較し適切なものであり、今回作成した物質循環を計算するためのプログラムが妥当なものであると結論した。

1.8 閉鎖型生態系実験施設の要素技術の開発研究

(1)連続照射マウスの晩発障害

平成7年度に開始した身体的影響に係る実験は、順調に推移し、平成13年度末までに4000匹中3999匹が死亡した。平成13年度末までの成果をとりまとめると、本実験で最も高い線量率(20mGy/日)照射群に放射線の影響と考えられる寿命短縮が認められた。寿命短縮の原因としては、腫瘍の早期発生が示唆された。

継世代影響に係る2世代終生飼育予備実験では、死亡例が平成13年度末で総実験匹数640匹中106匹であった。死因については実験群間で大きな差違は認められていない。

(2)低線量放射線の造血細胞に及ぼす影響の調査

SPFマウスを用いて20mGy/日の連続照射を0-400日間行い、骨髄や脾臓の造血組織に及ぼす影響を調査し、積算線量が1Gyになる時点から血液幹細胞数が減少することを観察した。平成13年度は、平成12年度と同じ照射条件で連続照射を行い、50日に満たない時点、即ち、積算線量が1Gy以下の時点における骨髄、脾臓の幹細胞数について検討した。その結果、僅かではあるが減少する傾向が認められた。また骨髄や脾臓の造血組織の染色体に及ぼす影響の実験では、400日(積算線量 8Gy)で数的染色体異常の出現頻度が高く、また染色体の欠落で生じる小核頻度も積算線量 5,6,8Gyで高い個体が多かった。これらのことから、20mGy/日の低線量率の連続照射が造血細胞に有意な影響を及ぼすことが示唆された。

(3)低線量放射線の癌遺伝子に及ぼす影響の調査

SPFマウスを用いて、20mGy/日の低線量率の連続照射を400日間行い、発生したリンパ系腫瘍が自然に発生した腫瘍と遺伝子異常が異なるかどうかを調べるために、癌関連遺伝子の異常を調べる手法を用いて、p16とミトコンドリアの癌関連遺伝子の異常の解析を開始した。また低線量率被曝では高感度に遺伝子異常を検出する実験系をつくることが大切であるので、p53癌遺伝子の蛋白質発現を指標とできる遺伝子を導入したマウス培養細胞株を作成した。この細胞株は20mGy/日の低線量率照射にも反応した。今後の低線量率放射線被曝による細胞応答と発癌実験に有用であると考えられる。

2.放射性物質等の環境影響等科学・技術に関する知識の普及・啓発

原子力と環境のかかわりに関する知識および身近な科学知識の普及を目的として、以下の活動を行った。

環境研理科教室を、小学生対象に科学技術週間、青少年科学体験セミナー、ろっかしょ産業まつりおよび冬期理科教室で開催(参加者合計470名)し、実験を通して科学知識の普及を図った。放射線測定実演をふしぎ科学館(七戸町と弘前市)とろっかしょ産業まつりで開催し、自然放射線(能)が身近にあることを体験してもらった。

出前講演会を14回実施し、科学知識の普及を図った。海産動物の自然発生奇形事例について文献調査し、情報を収集した。身近な話題を解説したミニ百科、科学知識を親しみやすく基礎から系統的に解説したサイエンスノート等を作成・発行し、配布した。

広報ビデオ「大地と放射線」を制作・配布するとともにホームページを拡充更新し、原子力・科学知識の普及を図った。

環境研ニュースの発行(4回)、環境研セミナーの開催(12回)および講師派遣(11回)を行い、原子力と環境のかかわりに関する知識の普及を行った。

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