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1.7 低線量放射線の生物影響に関する調査研究

(1) 低線量放射線生物影響実験調査
(1.1) 身体的影響に関する実験

平成 7年度に開始した身体的影響に関する実験は、順調に推移し、平成14年度末までに実験マウス総数4000匹全てが寿命により死亡した。平成14年度末までの成果を取りまとめると、オス、メスの20mGy/日照射群およびメスの1 mGy/日照射群において放射線の影響と考えられる寿命短縮が認められたが、0.05 mGy/日群では、オス・メスとも、寿命短縮は認められなかった。寿命短縮の原因としては、腫瘍、特に悪性リンパ腫の早期発生が示唆された。

(1.2) 継世代影響に関する予備実験

1世代照射終生飼育予備実験では、平成14年度末で実験マウス総数640匹中558匹が死亡した。生存曲線を比較した結果、実験群間で差は認められず、また死因についても実験群間で大きな差違は認められていない。

(2) 低線量放射線の細胞(造血細胞)に与える影響調査

マウスに、低線量率γ線を連続照射し、造血幹細胞数の変化を経時的に調べた。集積線量の増加に伴い、数の減少傾向が観察された。また細胞表面抗原により造血幹細胞を分離・解析する技法を検討した。昨年度までの調査で、低線量率連続照射は造血幹細胞を減少させることがわかっていたが、より低い線量率でも幹細胞数に影響することが示唆された。また、連続照射による造血細胞の染色体異常を観察した。集積線量が増加するに従い、造血細胞は有意に高い頻度で染色体異常を起こしていることがわかった。以上のことは、低線量放射線による白血病発生機構を解明する上で重要な知見といえる。

(3) 低線量放射線の遺伝子(がん関連遺伝子)に与える影響調査

低線量照射後、がん関連遺伝子について以下の検討を行った。 1 照射影響を効率的に検出できるマウス細胞株を開発し、p53タンパク質の量を調べた。極めて低い照射でもこの細胞株はp53タンパク質を発現したが、発現の仕方は、高い線量率照射の時とは異なっていた。 2 寿命試験のマウスから得られたリンパ腫について、染色体の変化を遺伝子レベルで調べた。リンパ腫細胞では高頻度に染色体欠失が観察されたが、照射群と非照射群間の欠失出現頻度に差はみられなかった。 3 がん関連遺伝子でもあるミトコンドリアDNAの欠失突然変異を高感度に検出する方法を開発し、肝・脾臓細胞でこの突然変異率を経時的に調べた。老化にともない変異率は増加したが、放射線照射による上乗せの効果は認められなかった。以上のことは、低線量率長期照射による発癌の機構解明にとって重要な知見といえる。なお、研究内容の評価と情報交換を行うために、「低線量放射線の細胞応答と発癌に及ぼす影響」について、国際検討委員会を開催した。

放射性物質等の環境影響等科学・技術に関する知識の普及・啓発

原子力と環境のかかわりに関する知識および身近な科学知識の普及を目的として、以下の活動を行った。

 環境研理科教室を、小学生等を対象に科学技術週間、ジュニアリーダー夏季研修会、ろっかしょ産業まつり及び冬期理科教室で開催(参加者合計約1200名)し、実験を通して科学知識の普及を図った。放射線測定実演を、わくわく体験科学館(六ヶ所村、むつ市)とろっかしょ産業まつりで開催し、自然放射線(能)が身近にあることや放射線利用を体験してもらった。

 出前講演会を29回実施し、科学知識の普及を図った。淡水動物の自然発生奇形事例について文献調査し、情報を収集した。身近な話題を研究者の立場で解説したミニ百科、科学知識を親しみやすく基礎から系統的に解説したサイエンスノート、環境研の研究活動を紹介した環境研パンフレット等を作成・発行し、配布した。

 広報ビデオ「ミニ地球ってなんだろう」を制作・配布するとともに、ホームページを拡充・更新し、原子力・科学知識の普及を図った。

 環境研ニュースの発行(4回)、年報の発行、環境研セミナーの開催(12回)、講師派遣(9回)を行い、原子力と環境のかかわりに関する知識の普及を行った。

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