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1.7 低線量放射線の生物影響に関する調査研究

(1) 低線量放射線生物影響実験調査

平成7年から開始した身体的影響に関する実験(寿命試験)は、平成14年度中に全てのマウスが死亡し、実験群別の寿命が決定した。この結果は、論文として学術誌(Rad.Research 160,2003)に投稿し、平成15年9月に掲載・公表された。平成15年度は、平成14年度に引き続き、死亡したマウスについて病理検索を実施し、死因及び発生腫瘍を解析した。雌雄とも死因の約80%は腫瘍によるものであった。照射線量が増加すると、オス及びメスの悪性リンパ腫、軟部組織腫瘍、肺腫瘍、骨髄性白血病またメスの肝腫瘍による死亡の早期化が認められ、これらの腫瘍が照射線量の増加に伴う寿命の短縮に関係していることが示唆された。

また、継世代影響に関する予備実験として、1世代照射終生飼育予備実験、1世代照射異系統交配短期飼育予備実験、1世代照射中期飼育予備実験を実施した。得られたデータを検討し、平成16年度から実施する継世代影響本実験の実験計画を作成した。

(2) 低線量放射線の血液細胞に与える影響調査

昨年度までの検討で、低線量率(20 mGy/日)ガンマ線を連続照射すると集積線量の増加とともに造血幹細胞数は減少するが、末梢血数には変化が認められないことを明らかにした。本年度は、より低い線量率(1mGy/日)においても同様な現象が認められるかを検討した。この線量率では、400日間の照射(集積線量400mGy)でも末梢血数はもとより造血幹細胞数も変化しなかった。現在、より長期間照射の影響を確認するための実験を実施している。

また、造血細胞への低線量放射線の影響を染色体異常率及び小核形成頻度で観察した。集積線量の増加と共に染色体異常率が増加することが観察された。

(3) 低線量放射線のがん関連遺伝子に与える影響調査

低線量照射後、がん関連遺伝子について以下の検討を行った。@寿命試験のマウスから得られたリンパ腫について、照射群と非照射群の遺伝子異常を染色体欠失(LOH)解析によって調べた。結果、12番染色体上の特定の領域にリンパ腫の発生に関与している遺伝子があることが示唆された。A放射線照射は、ミトコンドリアDNAの突然変異誘発にほとんど関与していないことが明らかとなった。Bp53遺伝子について、培養細胞を用いて解析した。結果、低い線量率での照射と比較的高い線量率での照射では、放射線の細胞増殖抑制作用が異なることが強く示唆された。C染色体全領域にわたり網羅的かつ高精度に染色体異常を検出することが可能なアレイCGH法を確立した。また、この方法が悪性リンパ腫の染色体異常の解析に十分利用できることを、寿命試験で得られたリンパ腫を用いて確認した。

(4) 生物学的線量評価に関する調査研究

本調査は、高線量被ばくはもとより低線量・低線量率被ばく時における被ばく線量を生物学的な手法を用いて評価できるようにすることを目的として平成15年度から開始した。染色体異常は生物の被ばく線量を推定するために良い指標とされていることから、平成15年度は、国際標準である染色体異常による方法を導入すると共に、高線量被ばく時に有効なPCC-ring法を確立した。また、FISH法を応用した線量推定について検討を行った。

2.放射性物質等の環境影響等科学・技術に関する知識の普及・啓発

核燃料サイクル確立の重要性と環境安全に関する正しい知識の普及や自然科学に対する関心を高めることを目的として、以下の活動を行った。

1.

小学生等を対象に理科教室を開催(参加者合計約900名)し、科学知識の普及を図った。放射線測定実演を、ろっかしょ産業まつり等で開催した。

2.

出前講演会を30回実施し、放射線及び科学に関する知識の普及を図った。自然発生奇形事例について文献調査した。ミニ百科、サイエンスノートを作成した。

3.

過去に作成したビデオ「大地と放射線」及び「ミニ地球ってなんだろう?」をテレビ放映し、モニターアンケートを行って普及効果を確認した。新たにビデオ「放射線と寿命〜マウスから人へ〜」を制作・配布すると共に、高速増殖炉等の知識をホームページに掲載し、原子力と環境のかかわりに関する知識の普及を図った。

4.

環境研ニュースの発行(4回)、年報の発行、環境研セミナーの開催(11回)、講師派遣(17回)を行い、原子力と環境のかかわりに関する知識の普及を行った。

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