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1.7 低線量放射線の生物影響に関する調査研究

(1) 低線量放射線の個体レベルでの影響

平成7年度に開始した身体的影響に関する実験(寿命試験)成果のうち、寿命に関する結果は、平成15年度に論文化(Radiation Research 160, 2003)したが、平成16年度は引き続き病理学的検索を実施してすべてのマウスの死因を確定し、死因及び腫瘍発生について解析調査を行った。その結果、オス、メスの悪性リンパ腫、軟部組織腫瘍、肺腫瘍、骨髄性白血病等による死亡の早期化が認められ、これらの腫瘍がオス、メスの21 mGy/日照射群及びメスの1.1 mGy/日照射群における寿命の短縮に関与しているものと考えられた。また、致死性及び非致死性腫瘍を併せた総原発腫瘍のうち、血管系腫瘍、ハーダー腺腫瘍等の発生率が雌雄とも21 mGy/日照射群で有意に増加していた。

また、平成16年度から継世代影響に関する実験を開始し、第1回照射実験を実施した

(2) 低線量放射線の血液細胞に与える影響調査

これまでにマウスにγ線を低線量率(20 mGy/日)で連続照射すると、集積線量の増加とともに、骨髄及び脾の造血前駆細胞数は減少するが、末梢血球数には変化がみられないことを明らかにした。平成16年度は、更に低い1 mGy/日の線量率で、最大500日まで連続照射しても、造血前駆細胞数及び末梢血球数の減少は観察されず、線量率による違いが示唆された。造血前駆細胞数の減少がみられる20 mGy/日で400日間連続照射終了後、210日間飼育しても造血細胞数の回復はみられず、造血支持細胞も傷害を受けていることが示唆された。

また、造血細胞への影響を染色体レベルで定量化するため、マウスを20 mGy/日と1 mGy/日の線量率で最大500日まで連続照射し、脾細胞の染色体異常頻度を経時的に調べたところ、いずれの線量率とも、集積線量が増加するにつれて、異常頻度は増加した。更に各線量率で同じ集積線量における異常頻度を比較したところ、正の線量率効果が認められた。

(3) 低線量放射線のがん関連遺伝子に与える影響調査

低線量率γ線連続照射マウスでは、リンパ腫等による早期死や特定の腫瘍発生率の増加等が認められているが、平成16年度は、この腫瘍発生機構をがん関連遺伝子異常の点から検討し、以下の結果が得られた。

  • (1) マウスを20mGy/日の線量率で400日間連続照射すると、悪性リンパ腫が早期に出現することを確認した。
  • (2)発生した悪性リンパ腫の遺伝子異常と染色体異常を、LOH法とアレイCGH法で調べたところ、12番染色体の欠失、15番染色体のトリソミー等、欠失・増幅の多くみられる部位について、照射群と非照射対照群間に明らかな違いが観察された。このことから細胞周期やシグナル伝達系に関わる遺伝子の異常が、腫瘍発生早期化に関与している可能性が示唆された。
  • (3) 放射線の影響を高感度に検知できる細胞株を用いて、低線量率の照射に特異的に発現する遺伝子を調べたところ、細胞外マトリックスに関与する遺伝子等、p53に関与しない遺伝子が多いことが明らかとなった。また放射線照射で出現するとされるγH2AXタンパク質の細胞内集合の程度(フォーカス数)を、多数の照射細胞の中から細胞1個ごとに定量する方法を検討し、有効な手段であることが分かった。

(4) 生物学的線量評価に関する調査研究

本調査は、高線量被ばくはもとより低線量・低線量率被ばく時における被ばく線量を生物学的な手法を用いて評価できるようにすることを目的として平成15年度から開始した。染色体異常は生物の被ばく線量を推定するために良い指標とされていることから、平成15年度は、国際標準である染色体異常による方法を導入すると共に、高線量被ばく時に有効なPCC-ring法を確立した。また、FISH法を応用した線量推定について検討を行った。

2.放射性物質等の環境影響等科学・技術に関する知識の普及啓発

放射線、原子力と環境のかかわり等に関する知識の普及を図るとともに、自然科学に対する関心を高めることを目的として、以下の活動を行った。

1.

科学技術週間での研究所公開時、ろっかしょ産業まつり等地域でのイベント時において、理科教室や放射線測定実演を開催し、科学知識や放射線知識の普及活動を行った。

2.

研究所職員が出向いて行う出前講演や、青森県民講座の開催によって、エネルギー・原子力・環境・放射線等に関する説明を行った。また、大学等からの依頼に応じた講師派遣、所外から講師を招聘して最新の専門知識を紹介する環境研セミナーを開催した。

3.

印刷物として、 原子力や身近な科学的話題を研究者の立場で解説した「ミニ百科」、放射線に関する知識を基礎から系統的に図解した「サイエンスノート」、環境研ニュース及び年報を発行した。

環境研の活動等を発信するため、環境研ニュース及び年報を発行した。

4.

平成16年度の制作ビデオ「体の中から放射線?」を作り、配布した。また、平成15年度に作成したビデオ「放射線と寿命」をテレビ放映した他、ビデオ上映会で上映した。

5.

研究所のホームページを通じて、原子力と環境のかかわりに関する知識の普及を図った。

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