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7. 低線量放射線の生物影響に関する調査研究

7.1 低線量放射線生物影響実験調査(継世代影響とその遺伝子変異に係る実験)

低線量率放射線の長期連続照射による継世代影響を明らかにするため、低線量率(0.05mGy/22h/ day、1mGy/22h/day、20mGy/22h/day)γ線を約400日間連続照射したオス親マウスを非照射メス親マウスと交配し、仔(F1)を得、さらにその仔同士の交配によって孫(F2)を得て、非照射対照群の仔・孫とともに、それらを終生飼育して死亡マウスの寿命、死因、発がん及び遺伝子変異等を調べている。オス親マウスの照射は6回に分けて行っており、平成21年度末までに5回分(140匹)の照射を終了し、それぞれ3世代の繁殖データの収集、死亡個体の病理学的検索及び遺伝子解析用組織試料の凍結保存を行った。昨年度までに、20mGy/22h/day照射群で平均出産数(仔(F1)マウス数)及び仔(F1)マウスの平均離乳数の減少傾向が認められた。また、寿命に関しては、20mGy/22h/day照射群の親世代オスマウス(合計101匹)において、非照射対照群に比べ統計学的に有意な寿命短縮が認められており、21年度には解析数が増えた結果、20mGy/22h/day照射群の仔(F1)世代オスマウス(合計78匹)においても、オス親世代と同様に非照射対照群に比べ統計学的に有意な寿命短縮が認められた。親世代オスマウス、仔(F1)世代及び孫(F2)世代マウスともに死因の種類、発生腫瘍の種類及びその頻度にいずれの実験群間においても有意な差は見られていない。

低線量率放射線を長期連続照射したマウスの生殖細胞におけるゲノムの突然変異を検出する方法を確立するため、ポジティブコントロールとして、高線量率(900mGy/min)γ線を高線量(8000m Gy)照射したオス親マウス、非照射メス親マウス、及びそれらの交配によって得た胎子マウス、それぞれの組織から抽出・精製したゲノムDNAを用いて、オリゴマイクロアレイCGH法による突然変異検出法について検討を行った。その結果、オリゴマイクロアレイCGH法を用いた解析によって欠失や重複を示すコピー数の異常を照射群の胎子マウスで検出できた。今後、本法により低線量率(20mGy/22h/day)γ線を高集積線量(8000mGy)に達するまで長期連続照射したオスマウスの子孫におけるゲノムの欠失や重複を検出する計画である。

報告詳細
7.1.1低線量率γ線連続照射オス親マウスの仔・孫への影響 -病理学的検索-(736KB)
7.1.2低線量率γ線連続照射オス親マウスの仔・孫への影響-生殖細胞突然変異のゲノムワイド検索-(869KB)

7.2 低線量放射線の生体防御機能に与える影響調査

低線量率放射線の長期連続照射が免疫系に及ぼす影響を明らかにするため、低線量率(20mGy /22h/dayおよび 1mGy/22h/day)γ線を長期連続照射したメスマウスの脾臓リンパ球の比率を調べ、同日齢非照射マウスと比較したところ、各リンパ球サブセット及びT細胞サブセットの構成比には、有意な変化が観察されなかったが、異系統マウスのリンパ球(アロ抗原)に対する長期連続照射したメスマウスのT細胞の増殖応答能が有意に低下していることを見出した。また、低線量率(20mGy/22h/day)γ線を長期連続照射したマウスで、移植した腫瘍細胞の生着率が増加し、腫瘍細胞に対するリンパ球の増殖応答能が低下していることが分かった。これらの結果から、低線量率γ線の長期連続照射により、腫瘍に対する免疫機能が低下している可能性が示された。

低線量率放射線連続照射メスマウスの体重増加(組織の脂肪化)が起こる要因を明らかにするため、低線量率(20mGy/22h/day)γ線を連続照射したメスマウスで体重増加と卵巣の病変や機能の変化との関係を調べたところ、有意な体重増加が認められる時期に先立って、卵巣の著しい萎縮が認められ、非照射対照マウスに比べて早期の閉経が起こっていることが分かった。この結果から、低線量率(20mGy/22h/day)γ線を長期連続照射したメスマウスの体重増加には卵巣萎縮と閉経に伴うホルモンバランスの変化が密接に関与することが示された。

報告詳細
7.2.1低線量率γ線連続照射マウスの脾リンパ球サブセットの構成比解析(855KB)
7.2.2低線量率γ線連続照射マウスの脾T 細胞の構成比と増殖応答能解析(912KB)
7.2.3低線量率γ線連続照射マウスの移植腫瘍応答解析(866KB)
7.2.4低線量率γ線連続照射雌マウスの体重増加とその要因解析(900KB)

7.3 低線量放射線のがん関連遺伝子に与える影響調査

線量率放射線の連続照射による発がんと遺伝子等への影響を明らかにするため、低線量率(20 mGy/22h/day)γ線を連続照射したマウスにおける悪性リンパ腫のゲノム異常と遺伝子発現変化、白血病のゲノム異常、遺伝子発現変化と細胞分化段階を調べた。さらに、同様の低線量率γ線で連続照射中のマウスの脾臓組織リンパ球の遺伝子発現についても調べた。

悪性リンパ腫に関しては、低線量率(20mGy/22h/day)γ線を高集積線量(8000mGy)になるまで連続照射したマウス及び非照射マウスにそれぞれ発生した悪性リンパ腫の遺伝子発現パターンを比較した。その結果、Alk 、CD30 等の細胞表面受容体とその下流のシグナル伝達等に関与する遺伝子の発現増加を特徴とする悪性リンパ腫(ここではA群悪性リンパ腫と呼ぶ)が照射群に有意に多かった。また、A群悪性リンパ腫採取時のマウスの日齢は非A群悪性リンパ腫を採取したマウスに比べて若かったので、A群悪性リンパ腫は早期に発生した可能性がある。さらにA群悪性リンパ腫のゲノム異常をオリゴマイクロアレイCGH法で調べると、T細胞増殖因子受容体遺伝子Il2ra を含む2番染色体動原体近傍領域の増加が多く観察され、この遺伝子の発現量も高いこともわかった。このことから、A群悪性リンパ腫の発生・進展には上記の遺伝子の他にIl2ra 遺伝子も関与している可能性がある。

白血病に関しては、低線量率(20mGy/22h/day)γ線を高線量(8000mGy)になるまで連続照射したマウスに発生した白血病細胞のゲノム異常と細胞分化段階は、高線量率・高線量γ線照射マウスの白血病とは異なり、2番染色体欠失頻度が少なく、未熟なリンパ球系の分化段階にあることがわかった。さらに白血病幹細胞の起源となる細胞を同定するために、白血病細胞を分画して同系マウスに移植し、白血病発症の有無を調べるとともに白血病を誘発した移植細胞を遺伝子発現プロファイルに基づいて分類した。高線量率・高線量照射マウスの白血病幹細胞が骨髄球系前駆細胞由来であるのとは異なり、低線量率・高線量照射マウスの白血病幹細胞の多くは、リンパ球系共通前駆細胞に近い性質を持つ細胞から発生していることがわかった。

低線量率(20mGy/22h/day)γ線を10, 40日間連続照射したマウスの脾臓T,Bリンパ球で、3つの遺伝子(細胞周期に関わるp21 とCyclinG1 遺伝子並びに細胞死に関与するBax 遺伝子)の発現量を調べた。p21 遺伝子の発現量はTリンパ球では10日間の照射で、Bリンパ球では、10、40日間の照射でそれぞれ高い遺伝子発現が観察された。またCyclin G1 遺伝子は照射40日目のTリンパ球のみで、Bax 遺伝子はT,Bリンパ球で照射40日目にそれぞれ発現量が増加した。これらの遺伝子発現量は、いずれもp53 遺伝子欠損マウスでは照射しても増加しなかったので、低線量率照射でも高線量率照射と同様にp53 の活性化が関わっていることがわかった。

報告詳細
7.3.1低線量率γ線連続照射マウスに生じた悪性リンパ腫の遺伝子解析(4.6MB)
7.3.2高線量率及び低線量率γ線照射マウスに生じた白血病の幹細胞の違い(753KB)
7.3.3低線量率及び中線量率γ線連続照射マウスの脾リンパ球における遺伝子発現変化(704KB)

8. 生物学的線量評価に関する調査研究

低線量率・低線量γ線被ばく時の被ばく線量を、染色体異常を指標として推定する生物学的線量評価法を確立するため、I期調査で用いた線量率の1/20にあたる、低線量率(1mGy/22 h/day) γ線を最大約700日間連続照射(総線量は700mGy)したマウスの脾臓細胞の転座型染色体異常頻度を調べた。これまでの観察では、I期で調査した低線量率(20mGy/22h/day)長期連続照射マウスと比べると、低頻度であった。照射開始日(56日齢)の値と比べて照射開始617, 720日目では異常頻度が急増し、クローンの出現頻度も増加した。

また、低線量率・低線量のトリチウムβ線のヒトリンパ球の染色体等への影響を調べる時の詳細な線量評価法を作成するには、取り込まれたトリチウムの細胞内分布を調べる必要がある。そこで、トリチウム標識アミノ酸を使用する前に、まずトリチウム非標識・蛍光標識アミノ酸をヒトBリンパ球細胞株の培養液中に添加して細胞質と細胞核ごとの分布を蛍光顕微鏡下で調べる実験を行った。この結果から細胞核へのアミノ酸の取込み効率は高いことがわかった。

報告詳細
8.1低線量率γ線連続照射マウスの脾細胞における転座型染色体異常とクローン出現頻度(795KB)

II.放射性物質等の環境影響等環境安全に関する普及啓発

1.排出放射性物質影響調査研究情報発信活動

「排出放射性物質影響調査」によって実施されてきた調査研究の内容や得られた成果等を、報告会の開催、説明活動の実施等によって青森県民に直接紹介する他、インターネットホームページ及びパンフレットにより発信した。

報告会は、青森市、六ヶ所村、弘前市及び八戸市で開催し、環境と人体中での放射性物質の動きに関する調査研究及び低線量率放射線の生物影響に関する調査研究の内容及び判明したことについてそれぞれ報告した。

説明活動は県内で18回実施し、前年度の報告会で紹介した内容を基に、環境と人体中での放射性物質の動き、低線量率放射線の生物への影響について説明した。また、青森市内の大学学園祭に参加して、成果とともに放射線に関する基礎的な内容を説明した。

ホームページに関しては、掲載している研究情報の更新や追加を行うとともに、ホームページ中で使われている専門用語について用語解説の追加を行った。報告会配布資料も掲載した。

パンフレットについては、排出放射性物質影響調査の概要を紹介するために青森県が発行するパンフレットの原稿を作成した。また、調査研究内容の理解に資するため、放射性物質と放射線に関する説明を中心に、原子力施設の説明を織り交ぜた小冊子を作成した。

2.その他の活動

環境研の活動等を発信するため年報及び環境研ニュースを発行するとともに、自然科学に対する関心を高めるため六ヶ所村の小学生等を対象とした理科教室を開催した。

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