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6. 低線量放射線の生物影響に関する調査研究

6.1 低線量放射線生物影響実験調査(継世代影響とその遺伝子変異に係る実験)

被ばくした親から産まれた子孫における継世代影響を動物実験により明らかにするため、低線量率(0.05mGy/日、1 mGy/日、20 mGy/日)γ線を約400日間連続照射(総線量はそれぞれ20 mGy、400 mGy、8000 mGy)したC57BL/6Jオス親マウスを同系非照射メス親マウスと交配し、仔(F1)を得、さらにその仔同士の交配によって孫(F2)を得て、非照射対照群の仔・孫とともに終生飼育し、繁殖データ、死亡マウスの寿命、死因、発がん及び遺伝子変異等を調べている。

オス親マウス(各群180匹)への照射は6回に分けて行い、これまでに6回分全ての照射を終了した。3世代全て(総数約6,200匹)の繁殖データを収集するとともに、全ての死亡個体について病理学的検索及び遺伝子解析用組織試料の凍結保存を行った。

その結果、繁殖データに関しては、20 mGy/日照射群で平均出産数(仔(F1)マウス数)及び仔(F1)マウスの平均離乳数に統計学的に有意な減少が認められた。寿命に関しては、20 mGy/日照射群の親世代オスマウス及びその仔(F1)世代オスマウスにおいて、非照射群に比べ統計学的に有意な寿命短縮が認められている。また、死因の種類、発生腫瘍の種類及びその頻度に関しては、親世代オスマウス、仔(F1)世代及び孫(F2)世代の雌雄マウスのいずれにおいても、照射群及び非照射群間に有意な差は見られていない。

遺伝子変異解析では、上記の実験で死亡したマウスのうち859匹の凍結尾組織からゲノムDNAを抽出・精製した。これまでに20 mGy/日照射群のオス親、非照射メス親各20匹とその仔マウス111匹、非照射対照群のオス親、非照射メス親各21匹とその仔マウス140匹、合計333匹分のゲノムについてオリゴマイクロアレイCGH法による遺伝子変異解析を行い、仔マウスゲノムに新たに生じた変異のスクリーニングを終了した。その結果、20 mGy/日照射群の仔マウス111匹中24匹、非照射対照群の仔マウス140匹中17匹で新規変異の可能性が高い領域を検出した。つまり、新規突然変異候補の観察頻度は20 mGy/日照射群では1世代100匹当たり21.6匹、非照射対照群では1世代100匹当たり12.1匹となり、20 mGy/日照射群で有意に高かった(p<0.01)。このうち、20 mGy/日照射群では高頻度の変異を起こしたマウスが4匹見つかったが、非照射群ではそのような変異を示すマウスは見つからなかった。

報告詳細
6.1.1 低線量率γ線連続照射オス親マウスの仔・孫への影響 -病理学的検索- (446KB)
6.1.2 低線量率γ線連続照射オス親マウスの仔・孫への影響 -生殖細胞突然変異の検索- (677KB)

6.2 低線量放射線の生体防御機能に与える影響調査

低線量率放射線の長期間連続照射による生体防御機能への影響を明らかにするため、腫瘍に対する免疫機能への影響と脂質代謝機能への影響について調査を行っている。

抗腫瘍活性を定量的に把握するために移植腫瘍を用いた。この腫瘍に対する免疫機能活性を調べると、低線量率(20 mGy/日)γ線を長期間連続照射したマウス(B6C3F1)では低下していることをこれまでに明らかにしたが、さらに本解析では、この低下をもたらす要因を明らかにするための調査を行っている。具体的には、人工的な操作を加えた腫瘍細胞を、照射及び同日齢非照射対照マウスそれぞれに移植した時の生着率の違いや、マウス免疫細胞の遺伝子発現の違いを比較している。調査3年目の平成24年度は、移植した腫瘍(卵巣顆粒膜細胞腫)細胞の生着率の有意な亢進をもたらす要因として、腫瘍細胞が生産するケモカインリガンド(Ccl8)の発現および照射マウスの免疫細胞におけるケモカインレセプター(Ccr5)の発現低下が関与している可能性を明らかにした。

脂質代謝機能への影響に関しては、低線量率(20 mGy/日)γ線連続照射による閉経早期化と体重増加(組織の脂肪化)に対し照射開始週齢と集積線量の違いが及ぼす影響を明らかにするため、20 mGy/日のγ線を9週齢若しくは30および70週齢時からのいくつかの異なる集積線量まで連続照射した時のメスマウスの閉経早期化と体重増加の時期を調べた。30および70週齢時から連続照射を開始したマウスでは、9週齢時から連続照射を開始したマウスと比較してより少ない集積線量の照射で閉経早期化と体重増加が認められることが分かった。また、低線量率(20 mGy/日)γ線で9週齢時から連続照射した場合、集積線量が2.5Gyになった所で閉経と体重増加がみられ、それ以上の集積線量になってもさらなる変化はみられなかった。一方、低線量率(20 mGy/日)γ線で9週齢時から集積線量2.5 Gy未満の線量を照射したマウスでは、閉経早期化及び体重増加の時期が集積線量2.5 Gy以上照射したマウスと比較して遅延することが示された。

報告詳細
6.2.1 低線量率γ線連続照射マウスの移植腫瘍細胞に対する応答に関わる因子の解析 (570KB)
6.2.2 低線量率γ線照射メスマウスの閉経早期化と体重増加 (505KB)

6.3 低線量放射線のDNA修復関連遺伝子に与える影響調査

低線量率放射線の連続照射による発がんとDNA修復系遺伝子への影響を明らかにするため、照射マウスにおける腫瘍(特に悪性リンパ腫と白血病)の特性について調査を行っている。

寿命試験(平成7年度〜平成15年度)で認められた低線量率(21 mGy/日)γ線長期連続照射マウスの早期の腫瘍死は低線量率長期連続照射により腫瘍が早期に出現することによるのではないかという仮説を立て、これを確認するためB6C3F1メスマウスを用い、照射開始時(56日齢)から100日おきに700日目まで経時的に病理学的検索を実施した。その結果、肝腫瘍等は早期に発生していたが、悪性リンパ腫は早期には発生していないことがわかった。

他方、腫瘍死の主な原因と考えられる悪性リンパ腫を発生したマウスに特徴的にみられる血清タンパク質の探索を行った。解析方法としては、照射マウスから採取した血清を培養したマウス胎仔線維芽細胞(MEFs)に添加した後MEFsの遺伝子発現解析を行うという方法を用いた。これにより、照射群において悪性リンパ腫を発生したマウス (担がんマウス)では、非照射群において悪性リンパ腫を発生したマウス(担がんマウス)と比べて、NR3C1などのホルモン受容体経路を活性化させる血清中の生理活性物質量変化が予測された。そこで、実際にNR3C1のリガンドの一つである血清中のコルチゾール量を測定した。その結果、照射群で有意に血清中コルチゾール量が減少していた。このことは、照射群に生じた悪性リンパ腫とコルチゾール量に何らかの因果関係がある可能性を示唆する。

白血病に関しては、寿命調査で用いたマウスと同系のB6C3F1マウスに、56日齢から20 mGy/日の低線量率γ線を長期連続照射し、経時的に骨髄と脾臓の細胞をフローサイトメトリーで解析したところ、照射400日目において造血幹細胞の細胞数が非照射・同年齢群に比べて有意に減少していた。この造血幹細胞の減少の原因を明らかにすることを目的に、マイクロアレイによるmRNAの解析とその遺伝子発現プロファイリング分析を行った。その結果、照射マウスの造血幹細胞では下流の細胞への分化が促進されているために細胞数の減少が起こっている可能性が示唆された。高線量率放射線では細胞数の減少の原因はDNA鎖切断などによる染色体異常に起因する細胞死が一般的であるが、今回の解析結果では細胞死の促進は示唆されなかったので、低線量率放射線長期連続照射の造血幹細胞への影響は高線量率放射線とは異なる可能性がある。

報告詳細
6.3.1 低線量率γ線連続照射マウスにおける悪性リンパ腫等病変発生の早期化の確認 -病理学的解析-(492KB)
6.3.2 低線量率γ線連続照射マウスにおける悪性リンパ腫等病変発生の早期化の確認 -血清中のタンパク質を指標とした解析-(458KB)
6.3.3 低線量率γ線連続照射マウスの造血幹細胞の遺伝子発現プロファイルの解析(496KB)

7. 生物学的線量評価に関する調査研究

ヒトの低線量率・低線量放射線長期被ばく時の生物学的線量評価に向けた基礎資料を得るために、マウスを用いて染色体異常頻度を指標とした評価法を確立することを目的としている。

T期調査で用いた線量率(20 mGy/日)の1/20(1 mGy/日)及び1/400(0.05 mGy/日)のγ線をそれぞれC3Hマウスに最大720日間長期連続照射し、脾細胞に見られる転座型染色体異常頻度等と線量および線量率との関係を調べた。1 mGy/日の転座型染色体異常頻度は、125 mGyから600 mGyまで線量が増えるとともにほぼ直線的に増加し、また、照射開始から約400日目までは、非照射対照群より有意に高かった。1 mGy/日と20 mGy/日では、線量率が20倍異なるにもかかわらず、転座型染色体異常頻度の線量効果関係はほぼ同じであった。0.05 mGy/日の照射群と非照射群の異常頻度には、現在のところ差はみられていない。一方、非照射群の転座型染色体異常頻度は356日齢までは殆ど増加しなかったが、565日齢からは加齢と共に増加傾向を示した。

さらに、非照射群と比べて、照射群では線量率が高くなるほどクローンの出現時期が早くなった。また、クロ―ンを形成する染色体異常の種類も非照射群において15番染色体の異常が多くみられ、非照射群と照射群では異なる傾向があることがわかった。

報告詳細
7. 生物学的線量評価に関する調査研究(499KB)

8. その他の調査研究

日本原子力研究開発機構からの委託により、前年度に引き続き、福島第一原子力発電所事故に伴う放射性物質の長期的影響把握手法の確立のために、土壌試料(300試料程度)に含まれるガンマ線放出核種(Cs-134等)の測定を行った。

また、環境省の委託により、低線量率放射線長期被ばくによる生体影響の低減化に関する研究を、平成24年度から開始した。

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