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2. 低線量放射線の生物影響に関する調査研究

2.1 低線量放射線生物影響実験調査(継世代影響・線量率効果解析)

被ばくした親から産まれた仔における継世代影響を動物実験により明らかにするため、高線量率(約0.8 Gy/分)γ線を急照射及び低線量率(20 mGy/日)γ線を長期間連続照射したC57BL/6Jオス親マウスを同系非照射メス親マウスと交配し、仔(F1)を得て、非照射対照群の仔とともに終生飼育し、繁殖データ、死亡マウスの寿命、死因、発がん頻度、遺伝子変異等を調べる。

本実験調査初年度である平成26年度は、目的のデータを得るために必要な至適放射線照射線量および実験手法を決定するために、高線量率(0.8 Gy/分)放射線を用いた実験を実施した。その結果、本実験では、照射線量を低線量率連続照射は6 Gyと3 Gy、高線量率急照射は2〜3 Gyとし、実験に使用するマウスの数は、オス親;120匹/群、メス親;120匹/群、オスF1;180匹/群、メスF1;180匹/群、総数は約2400匹とし、平成27年1月より本実験の第1回目を開始した。

平成27年度は、平成26年度に決定した至適放射線照射線量及び実験手法を基に、5回に分割した実験全体の内、26年度末に開始した第1回実験を継続、第2回実験及び第3回実験のオスマウス群照射を開始した。4週毎に測定している体重に関して、親世代オスマウスでは20 mGy/日×300日間照射群で重い傾向が見られるが、統計的に有意な差は認められていない。中期計画を順調に進めることができた。

報告詳細
2.1.1 低線量率ガンマ線連続照射オス親マウスの子孫への影響 -寿命、死因、がん発生検索-(408KB)
2.1.2 低線量率ガンマ線連続照射オス親マウスの子孫への影響 -生殖細胞突然変異の検索-(80KB)

2.2 母体内における低線量率放射線被ばく影響実験調査

母体内、すなわち発生初期から胎児期にかけての時期における低線量率放射線長期被ばくの健康影響を評価するため、受精卵の生死、胎仔の発生異常、死亡胎仔数、外表奇形などの出生前までに現れる短期的影響、また、出生後に見られる出産仔数、体重、外表奇形などに加え、寿命、死因、発がんなどに関する長期的影響を明らかにする。

調査初年度である平成27年度は、母体内において照射した場合の影響検出に適切な指標の選定、手法の確立、照射条件等の検索を行うために予備的検討実験を実施した。その結果、高線量率(約0.8 Gy/分)ガンマ線2 Gyを胎齢11日目(器官形成期)に照射した場合、生存胎仔数に影響は見られないが、出生後10週齢までにすべての個体が死亡することが分かった。一方、中線量率(400 mGy/日)ガンマ線を全妊娠期間照射した場合、生存胎仔数は有意に減少したが、一部の個体は出生後10週齢まで生存した。したがって、胎仔期での検索実験には、高線量率及び中線量率照射群を陽性対照群として用いることができるが、終生飼育実験には、中線量率照射群のみが使用可能であることが分かった。胎仔の奇形に関しては、高線量率照射群のみで認められた。これらの結果より、線量率、照射期間及び病理形態学的な指標・実験手法を決定した。

報告詳細
2.2.1 母体内における低線量率放射線被ばく影響実験調査 -予備的検討(病理学的検索)-(247KB)
2.2.2 母体内における低線量率放射線被ばく影響実験調査 -予備的検討(免疫組織化学的検索)- (403KB)

2.3 低線量率放射線に対する生理応答影響実験調査

低線量率放射線による健康影響評価の科学的根拠を得るために、生物個体が備えている生理学的恒常性維持のための各種調節システムが低線量率放射線照射に対してどのような反応をするか、また、低線量率放射線がこのような調節システムへの影響を通して生物個体に最終的に及ぼす影響(寿命短縮やがん発生)を明らかにするため、以下の調査研究を行った。

2.3.1 造血系解析

低線量率放射線が造血幹細胞周辺環境に生じる変化を介して間接的に造血幹細胞に与える影響を解析する。また、放射線照射を伴わずに造血幹細胞を移植することが可能なW/Wv系統マウスを使用し、低線量率放射線が造血幹細胞に直接的に与える影響を、間接的影響と区別して調べる。

調査初年度である平成27年度は、マウス骨髄造血幹細胞周辺環境中の各種細胞や細胞外因子を免疫組織学的に解析するための至適条件を検討した。また、W/Wvマウスを導入し、このマウスの寿命を調べるために無処理のマウスの飼育を開始した。また移植実験の至適条件を求めるための予備実験を開始した。

報告詳細
2.3.1.1 造血幹細胞の変化と寿命との関連の予備的検討(253KB)
2.3.1.2 低線量率放射線がマウス骨髄に及ぼす影響を明らかにするための実験手法の検討(385KB)

2.3.2 免疫系解析

低線量率放射線連続照射がもたらす免疫系への悪影響を飼育環境変更(環境エンリッチメント)によって低減できるかを、移植腫瘍細胞の生着・転移率、免疫細胞応答及び移植腫瘍細胞に対する応答を指標として調べる。

調査初年度である平成27年度は、低線量率放射線の長期連続照射が与える免疫系への悪影響に対する飼育環境変化による低減作用に関する実験を行うための条件検討を行った。8週間の環境エンリッチメント処置と3 Gyの高線量率放射線急照射後に腫瘍細胞を移植して腫瘍定着率を測定した結果、環境エンリッチメント処置群では通常飼育群と比較して移植腫瘍細胞排除能の有意な亢進が確認され、実験方法を決定することができた。

報告詳細
2.3.2 免疫系解析(377KB)

2.3.3 内分泌系解析

低線量率放射線連続照射メスマウスの閉経早期化に伴う内分泌系の変化とがん発生や寿命との関連を調べる。

調査初年度である平成27年度は、卵巣の役割を明らかにするために、非照射メスマウスにおける卵巣の切除処置及び低線量率(20 mGy/日)ガンマ線を連続照射したメスマウスにおける人工的な卵巣機能の補完処置の手技を確立した。

報告詳細
2.3.3 内分泌系解析(445KB)

2.4 低線量率放射線に対する分子細胞応答影響実験調査

低線量率放射線長期連続照射マウスで見られたがん発生による寿命短縮を理解するためには、低線量率放射線が個々の細胞に対して引き起こす応答(細胞応答)、細胞応答の結果として細胞のゲノム等に刻印される永続的影響を明らかにすることが必須であると考え、以下の調査研究を行った。

2.4.1 低線量率放射線照射による細胞応答分子への影響解析

低線量率放射線照射により個体細胞中で誘起される応答について、特別に鋭敏な生化学的検出系によりその応答分子を同定する。また、加齢マーカーとされる分子や加齢による臓器の機能低下の指標となりうるマーカー分子の量を、照射個体において経時的に追跡し、低線量率放射線による非特異的寿命短縮あるいは加齢促進という観点から、寿命試験結果のさらなる解明をめざしている。

調査初年度である平成27年度は、100日おきに継時的に解剖したメスマウス肝臓サンプルにおける加齢に関連するマーカー分子の遺伝子発現量変化を解析した。その結果、肝臓における一部の加齢関連遺伝子発現が照射群においてより早期に変化すると解釈できる結果が得られた。

報告詳細
2.4.1 低線量率放射線照射による細胞応答分子への影響解析(367KB)

2.4.2 線量率の違いによるゲノムへの影響解析

異なる線量率で放射線照射をしたマウス脾臓細胞における転座型染色体異常誘発を解析したこれまでの調査において、低線量率放射線で照射された細胞と高線量率放射線で照射された細胞は明白に異なる反応を示すという結果が得られており、その境界となる線量率域を明らかにする。また、低線量率放射線誘発染色体異常に対する加齢の影響についても明らかにする。

調査初年度である平成27年度は、転座型染色体異常誘発について線量率効果が現れる線量領域を決定するための予備実験を行った。低線量率である20 mGy/dayから高線量率である0.8 Gy/minまでの間の様々な線量率でマウスに総線量1 Gyの照射を行い、各線量率での染色体異常頻度の解析及び比較検討を行い、本実験で調査する線量率域を決定した。

報告詳細
2.4.2 線量率の違いによるゲノムへの影響解析(189KB)

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